「地図好き」と「地図嫌い」の行動の違い

出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!第46回となる今回は、『生物と無生物のあいだ』(講談社/刊)が話題となり、今回新刊『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー/刊)を刊行した福岡伸一さんです。
本書は、読書家として知られる福岡さんが、これまでの人生のポイントごとに読んだ本を紹介していくという、一風変わったブックガイドです。
同氏は膨大な読書体験の中からどのように本書で取り上げる本を選んで行ったのでしょうか?
また、本書に込められたメッセージとは?
■人間を二分する「マップラバー」と「マップヘイター」とは?
―本書『福岡ハカセの本棚』は、読書家として知られる福岡さんが選りすぐった本が100冊紹介されています。それぞれの本の紹介もさることながら、それらが福岡さんご自身とどのように結びつけられたか、ということも書かれていて興味深かったのですが、本書で取り上げた本というのはどのように選定されたのでしょうか。
福岡さん(以下敬称略) 「タイトルに“ハカセ”とありますが、そんなに偉そうなものではありません。何か好きなことが一つあって、それをずっと好きでい続けていれば博士になれます。この本はそういうメッセージも込めています。
この本の中で私が大切にしていることは時間の軸です。本を紹介しているブックガイドはたくさんありますが、そのほとんどは単に書評をたくさん集めたものなので、そういうものとは違う本の案内を作ってみたいと思っていました。となると、自分がどういう風に本と出会って、どう楽しんで、どう次の本と繋がっていったかという読書体験のプロセスを、少年時代から開示するのが一番いいのではないかと思ったんです。そのプロセスの中で、私の読書の出発点となった本や、それをきっかけに読書が発展していったというような本、転換点となった本など、道しるべのような本を選んでみました」
―図鑑から始まって冒険モノに飛ぶなど、子ども時代の福岡さんの読書はとてもダイナミックに広がっていったことが読み取れます。あるジャンルから別のジャンルに飛んだ時というのは福岡さんの中でどんなことが起こっていたのでしょうか。
福岡 「実はそんなに大きくは飛んでいないんですよ。ある場所に行くと、その場所から景色が見えたからそこに行ってみたとします。そこに行ってみると新しい窓があって、また新しい風景が見える。そんな風に道なき道を歩いて地図を作っていくように読書体験が進んでいきましたね。
この本の帯をどうするか考えた時に、一つのアイデアとして“あなたはマップラバーですか?マップヘイターですか?”というキャッチコピーがあったんです。人間は地図が好きな人(マップラバー)と地図が嫌いな人(マップヘイター)に二分できるんじゃないかというのがあって。私自身、“地図が好きな少年”として出発して世界の地図を作りたいと思っていました。それは文字通りの地図ではなく、世界の成り立ちを一つ一つマークしていくという意味ですね。それを続けることによって世界の成り立ちを知ろうとしていたんです。たとえば私は虫が好きだったので、きれいな蝶だとか光るカミキリムシを、図鑑を見ながら一つ一つ現実の世界と照合していくことによって世界の成り立ちを知ろうとしていました。その過程で冒険記とか航海記だとか、何かを探しながらそれを見つけていく小説や物語、ドキュメントなどに読書が発展していったんです。そうやってステージごとに読書が進んでいったので、私自身の感覚ではそんなに大きなジャンプがあったわけではありません。ただ、ある本を読んで、その本に書いてあったことから次の本と予期せず出会ったということはしばしばありましたね」
―本書には様々なジャンルの本が紹介されていますが、ビジネス書や自己啓発書は取り上げられていないように思いました。あまりこういった本とは接点がなかったのでしょうか。
福岡 「そうですね。ビジネス書とかハウツー本の類、あとはドストエフスキーや谷崎潤一郎といった、いわゆる“文豪”の作品もあまり入っていません。
私の読書は何でもかんでも古今東西の名著を渉猟してきたわけではなくて、基本的にマップラバーとして、世界の成り立ちを知ろうとする過程でおもしろい本と出会ってそれを読むというものでした。その意味では、『福岡ハカセの本棚』は、私のパーソナルな読書歴なのですが、読者の方も“そういうえば私も読んだな”とか“タイトルだけ知ってたけど読まずじまいだったな”という本を見つけることができると思うんですね。それをきっかけに読書の楽しみを再発見してもらえばいいと思います。あとは、私は教育者でもあるので、“こういう本を読むとおもしろい人生がひらけるよ”という意味で、若い人、あるいは子どもを育てている人たちに向けたメッセージでもあります」
記者: 新刊JP
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