主人公の本当の想いがつづられた話題の映画の原作

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 昨年9月に日本でも封切られ、評判も上々の映画『最強のふたり』。今でもまだ公開中の映画館があり、観たという人もいるだろう。本国フランスでは2011年に公開されており、大ヒットした。
 その原作にあたるのが、『A Second Wind』(フィリップ・ポッツォ・ディ・ボルゴ/著、田内志文/翻訳、アチーブメント出版/刊)だ。

 映画は身体が不自由な富豪のフィリップと使用人として雇われた破天荒な黒人青年・ドリスの2人が巻き起こす数々のトラブルやアクシデントを豊かに描いた、涙あり笑いありの友情コメディだったが、本作はフィリップの半生を中心に最愛の妻との時間、事故後に襲いかかってくる苦痛、そして映画ではドリスにあたるアブデルとの出会いと彼との生活などがつづられた自伝的ノンフィクションとなっている。そのため、映画のイメージのまま本作を読むと、驚く人もいるかも知れない。

 フランスの貴族の血筋を持つ富豪・フィリップの人生の大きな転機は、1993年6月23日だろう。パラグライダー事故によって病院に搬送され、成功確率は20%という出術から生還したものの、彼は首から下の自由を失っていた。
 愛する妻に、2人の子ども。順風満帆だった人生は大きく変わった。
 動かない全身の痛みに苦しむ中で、妻であるベアトリスは献身的にフィリップのことを支えた。しかし、そのベアトリスも身体が弱く、無理をしている状態が続いていた。

 そんな最中、フィリップは介護人としてアブデルを雇うことになる。
 今まで半端な仕事しかしたことがなく、もらったことがある給料もわずか。初日で仕事を辞めてしまったり、相手の無礼に腹を立てて殴りかかることもあった。まっすぐでプライドが高いこの青年は、子どもの頃のトラウマから世界のすべてを恨んでいた。
 なぜ、フィリップは彼を雇ったのだろうか。本書では、仕事の募集に最初に応募してきたこと、そして、彼に好印象を抱いたことを出会いの場面であげている。
このフィリップの予感は当たっていた。
 アブデルは一見悪い男のように思えるし、女ったらしだが、一緒にいれば退屈はしないし、無垢なのだ。そしてこんな風につづっている。

 彼は短気で、うぬぼれが強く、プライドが高く、野蛮で、矛盾を抱えた人間だった。彼がいなければ、私は衰えきって死んでしまったに違いない。アブデルは挫けることなく私を世話し、心あらずの状態だった私の心を解放して、弱い私を守って、泣いていた私を笑わせてくれた。ほんとうに細かいところまで気を配ってくれた。彼は私の守護悪魔だった。(p102より引用)

 アブデルは“天使”ではなく、“悪魔”なのである。それも、人を献身的に世話してくれて、気持ちを明るくしてくれる“悪魔”だ。

 1999年、事故から3年後、ずっと自分に付き添ってくれていた最愛の妻・ベアトリスが敗血症で亡くなり、フィリップは悲しみに暮れる。事故に続いて、最愛の人を失うという絶望。
 その中でも光を与えていたのは、この守護悪魔だった。アブデル流人生哲学を聞き、時には女性に対する価値観についても議論したそうだ。

 本書ではアブデルだけでなく、様々な人物が顔を出しては、印象深いエピソードを残していく。とはいえ、やはりアブデルの行動や存在感は際立ったものがあるし、著者は彼のことを書きたいという気持ちが伝わってくる。今は別々の道を歩んでいるそうだが、まさに「最強のふたり」と言えるだろう。
(新刊JP編集部)



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