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『千日の瑠璃』462日目——私は拍手喝采だ。(丸山健二小説連載)

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私は拍手喝采だ。

この世の実状に疎く、卓見の士には遠く及ばない小説家が、まほろ町の空気を呼吸するすべての人々とありとあらゆる物象に送る、盛大な拍手喝采だ。私はまず、吹雪で行き悩みながらも決してあとには引かない少年世一を称える。ついで、うたかた湖周辺の、天地正大の気を漲らせた荒涼たる冬景色を誉める。それから、盛代の潮流に頑として逆らい、盲断を慎む老い先短い年寄りを賞する。

そして私は、散見される町の灯の底無しの寂しさと暖かさを、住み荒され、雪や辛労辛苦の重みに堪え兼ねて傾く町営住宅を、手詰まりになっても尚闘志の充溢を保つ、若くて背の高いやくざ者を、時節の到来を待ちながら荏苒として今日に至った誰かを、意志に反してどんどん還俗の方向へ進んでいる修行僧を、古雅な佇いの門に寄りかかって寒天の星を仰ぎ見る辻堂の堂守りを、等しく誉め称える。

更に私は、惨めな敗北を喫しても鈍重な情熱をほとばしらせるまほろ高校の相撲部の猛者連と、電柱にぶつかって昏倒しても笑顔を崩さない酔っぱらいと、不養生が元で頓死した、家を外にすることが多かった平均的な父親と、淡く光る月影を横切る町切っての美人と、すくすくと生い育つ交通遺児と、懇ろな間柄の男女が破局へ向って繰り返す激しい交接を、それぞれ平等に嘆じるのだ。そうやって私は、一切の見返りをあてにしない讃辞を送りながらも、青い鳥の声に耳を傾けることを忘れない。
(1・5・金)

丸山健二×ガジェット通信

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