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『千日の瑠璃』455日目——私は隠し味だ。(丸山健二小説連載)

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私は隠し味だ。

オオルリに与える餌のなかへ世一がしばしばほとんど無意識のうちに混ぜこむ、隠し味だ。擦り傷が絶えない、やや左へ曲っている世一の鼻からぽたりと垂れ落ちた私は、九官鳥のために作られて市販されている固形の餌といっしょに熱湯を注がれ、よく練りあげられる。私の効果は、単に味を一段と引き立たせるというだけではない。防腐の役目まで果たすうえに、世一の危なっかしい命をともかく保つ力のお裾分けまでしてやっているのだ。

人力の及ばざるはるか彼方から星々の光によって運ばれてきた私のエネルギーは、慰み半分にからかわれることが多い少年の全細胞に遍く行き渡り、それから気持ちよく麻痺した、青みがかっている脳のなかへ集められ、醇な酒のようにじっくりと醸される。そして、放物線を描いて丘を越えて行く瞬間の愛を次々に捉えて濃度を増し、重くなって引力に従い、まほろ町の大気や哀切が出入りする、眼には見えない穴の外へ向って流れ出す。

世一と起居を共にする、いか物食いのオオルリは、私の養分によって羽毛の一本一本を幽遠の真理の色で飾り、さえずる生き物としての天分を惜しみなく発揮し、鳥類を超えた活眼の士となって人々の運命に割りこむ。今し方私を呑み下したこの青い鳥は、北西の洋上で準備された雷雲を呼び寄せ、生きているうちに落ち度を認めることはないという意味をこめた軽々とした雪を、まほろ町に降らせる。
(12・29・金)

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