『千日の瑠璃』448日目——私は添い寝だ。(丸山健二小説連載)

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私は添い寝だ。

丘の崖から落ちて絶命し、人間の手に落ちずにすんだ片眼の月の輪熊に少年世一がする、添い寝だ。後ろ肢に銃弾を喰らい、落下の途中であちこちの岩に叩きつけられて骨がばらばらに折れ、内臓がぐしゃぐしゃになったからこそ、そんな人目につかない狭い隙間におさまることができたのだ。また、見る気になれば何でも見える眼を持ち、ぐにゃぐにゃした体を持つ世一だからこそ、そんな場所の熊を捜し当て、近づくことができたのだ。

熊は依然として熊の原型をよく保っていた。しかしそうはいっても、世一はひと目で相手の死に気づいた。よしんば生きていたとしても、世一はためらわずに近づいたに違いない。世一は熊の割れた頭を幾度も幾度も撫でてやり、それから脇腹を下にしてその傍らに横たわった。そうやって世一はしばし憂いに沈んだ顔をしていたが、やがて死者のために口笛を吹き、吹き鳴らしながら、毛むくじゃらの大物を抱く腕に少しずつ力をこめていった。

だが私にいわせれば、どこからどう見ても熊のほうが世一を抱いている恰好だった。すでに長いこと生きた、世一よりも生きた熊は、これまでにもう何頭も仔を産み、そんな風に抱き締めて育てあげたのだ。世一は日没が迫るまで、丘の上で母親が呼ぶまで、熊の傍らを離れなかった。そして世一は家へ帰ってからも熊のことを誰にも話さなかった。体についている毛のことを姉に訊かれても、黙っていた。
(12・22・金)

丸山健二×ガジェット通信

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