『千日の瑠璃』429日目——私は選択だ。(丸山健二小説連載)

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私は選択だ。

薫陶よろしきを得て成人への道を辿るというわけにはゆかなくなった不良少年の、任意の選択だ。しかし、私が間違っているとかいないとか、正しいとかそうでないとかをずばりと指摘できる者など、どこにもいないはずだった。母親は呼吸器を痛め、病の床に明かし暮らす者となって久しく、父親は父親で、酒のせいでその少年がわが子であることを忘れてすでに久しかった。

また、その少年を受け持ったことがある高校の教師にしても、法律の外で生きる連中が垂れ流す害毒に少年が汚されてゆくのをとめることはできず、せいぜい月給の額に見合う程度の苦言を与えただけだった。まほろ町の警察でも一応彼に眼をつけてはいたものの、まだこれといって悪事を働いていない者をどうこうするわけにはゆかなかった。

きょう、高校を中退してもまだ親掛かりの身でいることを恥じた彼は、私を引き連れ、臆病なせいで善良な人々の仲間に入るしかない大勢の視線を浴びながら、白昼堂々と三階建ての黒いビルを訪れ、ダイナマイトでも吹き飛ばせないという頑丈な扉を叩いた。そして、まったく物怖じせずに、同じ道を進みたい旨をきちんと伝え、度胆を抜かれている三人の男に諾否の返答を求めた。小遣い銭とも支度金ともいえる金をもらって通りへ戻った彼は、良識ぶった冷ややかな視線を臨み返し、少年世一を呼びとめて、洗車を手伝わせた。
(12・3・日)

丸山健二×ガジェット通信

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