『千日の瑠璃』422日目——私は報復だ。(丸山健二小説連載)

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私は報復だ。

遅ればせながらも周到な計画のもとに手際よくやってのけられた、生半な覚悟ではない報復だ。下唇が異様に分厚く、そのせいで太い葉巻がよく似合う大男は、釣り人を装ってまほろ町へ一歩足を踏み入れたところで、私の待ち伏せを喰らった。峠で夜のうちから辛抱強く待っていた三人組は、めざす相手のクルマを強引に停め、外へ引きずり出し、ふたりがそいつの腕を一本ずつねじあげ、長身の青年が真正面に立った。タオルでぐるぐる巻きにされたそれの銃口は胸に直接押しつけられ、ありったけの弾丸を発射した。音や光や熱や煙や大事にすればあと数十年は楽に持つ命を、特売品のタオルが吸い取った。

遺恨を晴らした三人のうちのひとりは、クルマを処分するために手袋をしてハンドルを握り、トンネルの向うへと消えた。そしてあとのふたりは、罪跡を消すために、動かなくなったせいで倍の重さに感じられる、まだ温かい人間を青いシー卜にくるみ、湖へと向った。しかし、そうしたことに傑出した才能を持ち、私の実質的な首謀者といえる長身の青年は、中天に昇った月が明る過ぎると思い、急遽予定を変更した。湖底へ沈めるのを延期して、ひとまず山中に埋めることにしたのだ。穴に放りこむ前に青年は「お返しだ」と言って、大男の腕に膝をあてがった。死者の骨が折れる音を聞いたのは、当事者たちのほかには、おそらく私などとは一生無縁な、青尽くめの少年だった。
(11・26・日)

丸山健二×ガジェット通信

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