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世界の秘密はすべて解けてしまった

世界の秘密はすべて解けてしまった

今回は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿いただきました。

世界の秘密はすべて解けてしまった

新刊『不愉快なことには理由がある』から、PLOLOGUE「世界の秘密はすべて解けてしまった」の冒頭部分を掲載します。

「不愉快なことには理由がある [単行本(ソフトカバー)]」 橘 玲(著) 『amazon』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087806634/

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私たちの感情は、幸福や哀しみも、愛や憎しみも、歓喜や絶望もすべて科学的に説明できるといわれたらどう思うでしょう?

政治も経済も、独裁や戦争や虐殺ですら、この世界で起きているすべてのことはその理由が解明されていたとしたらどうでしょう。

あるいは、社会学や経済学だけでなく、心理学や哲学、文学に至るまで、人文・社会科学と呼ばれていた学問は、すべて科学の統一原理によってまとめられることを知っていましたか?

じつはこれは、SFの世界の話ではなく、すべて現実に起きていることです。より正確には、「こころとはなにか」が科学によって解明できるようになってきた、ということですが。

もちろんあなたは、こんな与太話を信じようとはしないでしょう。でも、もうすこしつきあってください。

なんでこんなことに気づかなかったのか?

グーテンベルクの印刷機やワットの蒸気機関、ニュートンの万有引力の法則やアインシュタインの相対性理論など、私たちの生活や世界の見方を根本から変えてしまうような発明や発見はいくつもあります。これを「パラダイム(枠組み)転換」といいますが、そのなかでも最大の発見のひとつがチャールズ・ダーウィンの進化論です。

世界には、宗教的な理由から進化論を認めないひとたちがたくさんいますが、一神教の教義から自由な日本人は、多種多様な生き物が40億年前に誕生した単細胞生物から進化したことや、ヒトの祖先とチンパンジーやボノボの祖先が共通していることを常識だと思っています。しかしこれは、進化論の持つ途方もない可能性のごく一部でしかありません。

進化論というのは、「子孫を残すことに成功した遺伝子が次世代に引き継がれる」という理論です。これをもっと簡単にいうと、「生き残ったものが生き残る」というだけのことで、ダーウィンの『種の起源』を読んだ当時の知識人たちが、「なんでこんなことに気づかなかったのか」と愕然としたのもよくわかります。

その後、進化論は個体だけでなく、社会や文明も進化していくという社会進化論に拡張され、それが人種差別を正当化し、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人虐殺)へとつながったとの反省から、厳しい批判にさらされました。現代の進化論は、そうした批判に一つひとつ科学的にこたえていくことで鍛えられていったのです。

1970年代に、進化論は生物学や遺伝学、ゲーム理論などの最新の研究成果を取り入れた進化生物学(社会生物学)となり、90年代には進化によってひとの感情(こころ)を説明しようとする進化心理学へと発展しました。

こうした現代の進化論の成果を大衆に広めたのがイギリスの動物行動学者リチャード・ドーキンスで、「利己的な遺伝子」*1は世界的な流行語になりました。

*1:「利己的な遺伝子 <増補新装版> [単行本]」 リチャード・ドーキンス(著) 『amazon』
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ドーキンスは、進化するのは遺伝子(のプログラム)で、生物は遺伝子のたんなる乗り物(ビークル)に過ぎないと説きます。もちろんこれは、遺伝子に進化への意志があるわけではなく、「生き残ったものが生き残る」という単純な原理によって、より環境に適した遺伝的プログラムが次世代に引き継がれるというだけのことです。

進化論を「利己的Selfish」な遺伝子の立場から説明することは、レトリックとしてはきわめて優れていますが、同時に、遺伝子が人間を支配しているかのような多くの誤解を招きました。ドーキンスは進化の仕組みを「盲目の(意識を持たない)時計職人」とも評していますが、こちらの言葉はまったく流行りませんでした。

進化心理学では、キリンの首が長くなるような身体的特徴だけでなく、人間のこころや感情も、より多くの子孫を残すように進化してきたと考えます。しかしこれも、まったく奇異な主張をしているわけではありません。

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