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メディアでの「学者」の意見、どう接すればいい?―『世界の経営学者はいま何を考えているのか』著者・入山章栄さんインタビュー(後編)

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 今、一冊の本に大きな反響が寄せられている。それが、ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーである入山章栄氏が著した『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版/刊)だ。
 新刊JPでは本書の著者である入山氏にインタビューを行い、世界の経営学のフロンティアについて詳しくお話をうかがった。これまで配信してきた前・中編に続き、今回はロングインタビューを締めくくる後編をお送りする。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■メディアでの「学者」の意見、どう接すればいい?

―お聞きしたいことがあるのですが、よくニュース番組や新聞、雑誌などで学者が何かの事件についてコメントをすることがあります。そうしたコメントって、学者の権威性もあってどうしても鵜呑みにしてしまいがちなところがあると思います。でも、例えば自分のよく知っている領域であるならば、「この意見は全然合っていない」ということもあるはずです。では、学者の言うことに批判的に接するにはどうすればいいのでしょうか。

「その質問はすごく難しいし、面白いですよね。学者と教授って肩書きがつくと権威だと思ってしまうみたいですね。でも、アメリカでは大学教授はただの仕事だと思われているので、全然偉くないんですよ。特別にステータスがあるわけでもないんです。
で、質問の回答ですが、結論から言えば分からないんですよ(笑)。おっしゃる通り自分の研究している分野については分かるけれど、例えば今なら地震や原発について、何が正しいのか、どうすることが正しいのかは分からないですよね。原発をそのまま稼働させるべきか、廃止させるべきか、学者たちも意見が分かれましたから。そういう意味ではどっちが正しいかとかは、みんな分からないんじゃないでしょうか。僕も分かりません。
また、もうすぐ選挙がありますが、景気対策の政策についても経済学者の間で論争になっていて、賛否両論あるわけです。それはどの研究者も『自分の主張が正しい』と信じていることを言っているのであって、研究の先端にいる人たちでさえこうやって割れているわけだから、僕たちに政策が良いか悪いかを見抜くのは極めて難しいことだと思います。
だから、最後は自分で考えるしかないんだと思います。社会科学では『実証』と『規範』が大事で、実証というのは世の中の物事がどうなっているのかを調べて考えること、規範は社会がどうあるべきか考えることです。実証についてはとにかくそれについての情報を集めて、調べて勉強して、規範は『自分の価値観で判断する』ということを自覚する。つまり、自分の価値観を自分で認識した上で、判断するということですね」

―最終的には自分の価値観に合うものを選ぶ、と。

「そういうことになります。とはいっても、社会科学の分野で言わせてもらえれば、普段からあまりにもテレビによく出演している人はあまり信用しないほうがいいかも知れませんね。学者にとって大事なのは研究して論文を書くことなので、一生懸命研究して論文を書いていると、あまりメディアに出ている時間は取れないはずなんです」

―しかも、一度テレビで見かけたなと思ったら、別の分野にまでコメントをしていたりしますからね。

「正直言うと、僕はこの本を書くことをすごく悩みましたし、今でも半分後悔しています。僕も学者として半人前で、まさにアメリカで競争している最中なので、1分でも1秒でも長く研究しなきゃいけないはずなんです。でもこの本だけは、強い問題意識があったので書かせてもらいました。でも、もしこの本を書く時間を論文にあてたら、良い論文が1本ぐらいは書けたかも知れない、という想いは今でも持っています。
ただ、社会科学はある程度、社会に影響を与えられる学問ですから、啓蒙をしたり、多少テレビに出たり、本を書いたり、雑誌に寄稿したりするのはすごく大切なことだと思うんですよね。だから否定はしないけれど、ちょっと出過ぎている人はちゃんと研究できているのかなと思いますね」

―(笑)ちょっと話が戻りますけど、受け手側は本書のような文献などを通して、社会科学で実証されていることを知っておくことは大切ですよね。

「この本では、これが正しいと言っているわけではなく、考える契機にして欲しいと思って書いています。タイトルには『世界の経営学者』ってスケールの大きな言葉がつけられていますが、それが正しいか、正しくないかという規範的な話は、社会科学で語るのは難しいと思いますから」

―入山さんが影響された経営学の本をあげていただけますか?

「これはですね、ないです(笑)。それはどうしてかというと、僕は日本の経営学の本をほとんど読んでいないからです。僕はアメリカに行ってから経営学をはじめたので、経営学歴はまだ9年なんです。それで、アメリカに行ってからは基本的に論文を大量に読んだり、ケーススタディ、実務家との対話、あとは教科書みたいなものがメインなので、本という意味ではあげられないですね。
それ以外だと、家ではマンガを読んだりしています。だからお勧めの本と聞かれたら、諫山創さんの『進撃の巨人』(講談社)をあげようと思って今日は来ました(笑)。面白いですよね。あとは、『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)で連載されている『めしばな刑事タチバナ』(原作/坂戸佐兵衛、イラスト/旅井とり)ですね。B級グルメマンガなんですが、本当に面白いです」

―じゃあ、『週刊アサヒ芸能』をアメリカで読まれているということですか?

「『進撃の巨人』はインターネットで評判を聞いて、どうも面白いと。それで日本に帰ってきたときに手を出したのがきっかけです。『めしばな刑事タチバナ』は仲の良い友達からある日突然、航空便で郵送されてきて、無言で『読め!』と。それを読んだら面白かった(笑)。
で、強いてマンガ以外で影響を受けた本をあげるとするのであれば、経済学で、木村福成さんという国際経済学の研究をしている方がいらっしゃるのですが、今でもバリバリ現役で、政策にも携わっている凄い方なんです。その木村さんは以前、僕と同じニューヨーク州立大学にいたのですが、十数年前に日本の大学に帰ってきて、僕はその1年目に受け持ったゼミのゼミ生だったんですよ。その先生が書いた『実証国際経済入門』(木村福成、小浜裕久/著、日本評論社)という本があるのですが、いまだに自分の中で一番重要な本ですね。社会科学における『理論と実証のせめぎあい』の重要性をわからせてくれました。最初の2、3章は当時読んだときすごく難しかったけれど、知的興奮がすごかったですし、今でも考えの基盤になっていますね。
あともう一冊、東京大学で宇宙物理学者をされている吉井譲教授の『論争する宇宙』という本にも影響を受けました。この本は宇宙物理学の歴史をたどりながら、アインシュタインが最終的に放棄してしまった『宇宙定数』が、後の時代の研究者によって実は宇宙を説明する上でとてもだいじであることがわかった、というすごくロマンのある話で、なんというか、研究者の『宇宙の謎を解き明かしたい』っていう思いが伝わって来るんですよ。実は、僕の『世界の経営学者は〜』は、この『論争する宇宙』の経営学版を書きたい、と思ったのが着想のきっかけなんです。
でも、普段はやはり『進撃の巨人』とか、あとは『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博/作、集英社)も面白いです(笑)」

―では、最後に読者の皆様にメッセージをお願いできますでしょうか。

「書いている僕が言うのもなんですが、日本人にとっては、革新的な内容が書かれていると思います。欧米を中心に国際標準になりつつある経営学で、こういう研究が行われている、フロンティアではこういうことが発表されている、ということを体系的に紹介した一冊になっています。幸いなことに『とても読みやすい』という感想を、ビジネスマンや学生さんなどすごく多くの方からいただいていますので、経営や経営学に少しでも興味がある方には是非、目を通してもらいたいです。きっと、得るものがあると思います」

―ありがとうございました!

(了)



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