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経営学の最先端で起きていることとは?―『世界の経営学者はいま何を考えているのか』著者・入山章栄さんインタビュー(前編)

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 今、一冊の本に大きな反響が寄せられている。それが、ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーである入山章栄氏が著した『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版/刊)だ。
 海外のビジネススクールにいる教授たちが切り開いている「世界の経営学」の実態は、日本の方にはほとんど知られてはいない。では、今、世界の経営学のフロンティア領域ではどのようなことが研究されているのか。それを分かりやすく説明したのが本書である。
 今回は著者である入山氏にインタビューを行い、世界の経営学のフロンティアについて詳しくお話をうかがった。今回は前・中・後編、3回に分けてお届けするロングインタビューの前編をお送りする。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■国際的な経営学の世界ではドラッカーは引用されない?

―この『世界の経営学者はいま何を考えているのか』にはたくさんのデータが掲載されていますが、これを一つずつ掘り下げていけば、それぞれ一冊の本になりますよね。

入山氏(以下省略)「そうですね。この本はなるべくいろいろな方に読んでもらおうと思ったので、本質の部分だけを幅広く取り上げて、読み手に分かりやすく読んでもらえるようなストーリー作りをしています。だから、データを一つ一つ丹念に分析していけば、また違うものになるでしょうね」

―例えば、グローバル化が叫ばれる中で「国民性」というのは大きなキーワードになるかと思いますが、数値化してみると日本と最も国民性が近いところがハンガリーであり、アジア圏よりむしろ東欧圏の方が近いことが実証されています。このように、データを一つ取ってみても意外なものが多くて驚きました。

「実はこの本に書かれていることは、日本ではあまり一般的に知られていないだけで、海外、特に欧米の研究では常識とされていることが多いんです。だから、欧米の研究者から見れば、『なんで今さらこんなことを言っているんだ?』と思うかもしれませんね」

―そもそもこの本を執筆した経緯はどのようなものだったのでしょうか。

「これは僕自身のバックグラウンドにつながるのですが、実は僕は日本で経営学の勉強をしていないんです。日本では修士まで行きましたが、そのときは経営学じゃなくて経済学だったんです。ご存じのように経済学と経営学は別の学問なので、全く触れたこともなかったんですね。
大学院を修了した後、三菱総研で働いていたときに経営に興味を持ち、博士課程に進んで経営学を勉強し始めたというのが経営学との出会いです。そこでアメリカに行ったのですが、しばらくして気付いたことの一つ目が、欧米の経営学研究の舞台に日本人がほとんどいないということです」

―社会科学系の分野では、国際的に活躍している日本人研究者は少ないと聞きますね。

「経営学においては、全くいないと言ってもいいくらいです。今、30代後半から40代前半くらいの若手と呼ばれる年代で、アメリカのビジネススクールでプロフェッサーのついた肩書きを持って経営学者として研究活動をしている日本人は、僕を入れて3人くらいですね。
気付いたことの2つ目は、アメリカでの経営学しか知らなかったせいか、何年かして日本に帰ったとき、日本の状況がアメリカと全く違っていたということです。日本で経営学の著作といえば、ドラッカーの著作や『ビジョナリーカンパニー』といった本が代表的です。もちろんこれらの本はアメリカでも売れていますが、実は経営学のアカデミアの世界では取り上げられることがほとんどありません。だから、良いか悪いかは別にしても、日本人に知識として知っていてもらった方がいいと思いました」

―そういった部分が執筆のモチベーションにつながったんですね。

「こういった本を書ける人間――アメリカで研究をしていて、こういった問題意識がある日本人は、おそらく僕しかいないだろうと思いましたし、あと一つ、この本は博士号を取得してから書き始めたのですが、学者ってキャリアを積むほど知識が狭くなっていくんです。これは専門領域しか研究しなくなるからですが、逆に博士課程にいる間はいろんなことを勉強させられるので、実はものすごく幅広い知識を持っている状態になるんです。だから、これらの知識を忘れないうちに書こう、というのがきっかけでしたね」

―知り合いの社会科学系の領域の研究者の方々と話していて、よく、海外と比較して日本は遅れていると聞きます。これはどうしてなのですか?

「日本の社会科学が遅れているかどうかは僕には分かりません。少なくとも日本の経営学については、独自の進化を遂げているだけで、遅れていてはいないと僕は思います。ただ、客観的に見ていると、日本の社会科学系の研究のいくつかの領域は、あまり国際化できていないということは言えると思います。
たとえば経営学の分野においては、日本以外の多くの国では急速に国際標準化が進んでいます。つまり、どの国の研究者も共通の手法で、共通の文献を読み、同じ学会に行って、知識の基盤が共通化され、その中で議論をし合うということですね。アメリカやヨーロッパだけではなく、今は香港、シンガポール、中国や韓国の研究者もその舞台に出てくる人がものすごく多くなりました。ただ、日本人はなかなか出てきてないんですよね。
じゃあ、だから遅れているかというとそれは分からなくて、実は独自の進化を遂げているだけだと思うんです。実際、本でも書きましたが、僕は日本の経営学に精通はしていませんが、それでも日本の研究者の論文を読むこともたまにあってそれはすごく勉強になっていますし、リスペクトしている研究者も多くいます。ただともあれ、他の国と違うというのは間違いないことだと思います。ではどうしてそんなことが起こるのかというと、これは僕の仮説なのですが言語が要因の一つになっていると思います」

―言語が壁になっているということですね。

「例えば自然科学や物理学の分野では、国際的に活躍している日本人が多いですよね。それは何故かというと、共通言語が基本的に数学、数字だから、というのが大きいと僕は思っているんです。だから多少英語が出来なくても、自分の研究の情報を国際的に発信できますし、国際的な学術誌にも投稿できるのではないかと。理系の研究をしている学生って修士でもどんどん海外の学会に出ていって発表したり、雑誌に投稿したりしていますが、それは世界で一番の共通言語である『数学・数字』を使っているからです。逆に社会科学では、自然言語が壁になります。いくら素晴らしい研究ができても、英語でそれをちゃんと表現し、発信できなければ認められません。
ただ、社会科学の中でも濃淡があります。比較的国際化が進んでいる領域といえば経済学ですよね。経済学は主に数学を使うので、そこまで英語が上手くなくても、数学の能力があれば論文を通して伝えることができることも多いですから、国際化しやすい。逆に経営学や社会学の分野は自然言語の影響が強いので、バリアが高いのだと思います。そうなると独自の文化圏をつくりやすくなりますよね」

―先ほど少しお話しましたが、日本ではP・F・ドラッカーは経営学者として認識されているところがあります。ただ、調べてみると「社会生態学者」と名乗ったり、「未来学者」と呼ばれたりしていたようです。では、ドラッカーは欧米のアカデミアの中ではどう評価されているのでしょうか。

「これは本にも書いていますが、まず、僕はドラッカーが経営学者であるかどうかというのは分かりません。肩書きやレッテルの問題もありますし、そもそも経営学者がどんな定義かにもよります。ここで、事実として言えることは、アメリカの経営学者たちは、ドラッカーを使って研究していないということです。
それは何故かというと、今、経営学は『科学』になることを目指していますが、実はドラッカーの手法はそうではないんですね。ドラッカーの本では、自分の取材経験などを通した経営の普遍的な考え方が語られていますが、科学的な方法ではないため、どうしても研究で使いにくいんです。
だからといってドラッカーが良い悪いという問題になるわけではないし、彼の言葉が科学的に分析できないと言っているわけでもありません。本でも触れていますが、クレアモント大学のビジネススクールはドラッカービジネススクールと呼ばれていて、アメリカで唯一ドラッカーを研究しています。そこではドラッカーの考え方を科学にしようとする試みがなされています」

―では、ドラッカーの文献が学術的な論文で引用されることはほとんどないわけですね。

「ほとんどありませんね。僕は論文で一度だけ見たことあって、その研究者が自分の仮説を主張するときに、『そういえば、マネジメント・グルのドラッカーはこういうこと言っています』というようなニュアンスで使っていました。グルっていうのは教祖や強い影響を与えられる存在とかそういう意味です」

―その「マネジメント・グル」っていう表現は面白いですね。いわゆる自己啓発の分野の人という認識ですね。

「そうですね。いわゆるそのゾーンの人ってことですね」

(中編は12月5日に配信予定)



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