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これからのシニアビジネスの可能性とは?―村田裕之さんインタビュー(2)

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 超高齢社会を迎えた日本で、近年注目を集めているのが「シニアビジネス」、つまり中高年向けのビジネスだ。団塊世代が一斉に退職をする「2007年問題」のときには、法改正により事実上、定年が延びて65歳まで働けるようになったことから、劇的な変化は起きなかった。しかし、シニアビジネスはだんだんとその市場規模を広げつつある。
 そして、2012年となった今年、団塊世代の本当の定年退職がはじまろうとしている。東北大学特任教授で村田アソシエイツ代表の村田裕之氏は『シニアシフトの衝撃』(ダイヤモンド社/刊)で、いま起きているビジネスの動きを「シニアシフト」と名付けて、その実態を明らかにしている。

 では、今のシニアビジネスの本当の姿とは一体どのようなものなのか? 村田氏にお話をうかがった。今回はその後編をお伝えしていく。
(新刊JP編集部)

■シニアビジネスの意義、もう一つ側面は「若者の成長」

―ヒットするシニアビジネスの共通点は「きめ細かやかさ」のほかに何が挙げられますか?

村田氏(以下省略)「利用者の視点でいえば、一番の多いのは『不の解消』を行っているビジネスですね。不というのは不安、不満、不便のことです。先ほど成功例として挙げた『カーブス』という女性専用のフィットネスは、中高年女性が持っていた従来のフィットネスジムへの不満を全て潰していった結果なんです。例えば、従来のフィットネスジムよりも短い時間がいい、安い方がいい。それからマシンも全部油圧式なので、その人の体力に応じて鍛えられるようにでき、怪我もしにくい、など。また、重要なのが三つの『ノーM』です。一つが『NO MEN』。男がいないという意味です。二つ目が『NO MAKEUP』」

―メイクをしなくてもいいということですね。

「そうです。そして3番目が『NO MIRROR』、鏡がない。スポーツジムは鏡張りのところが多いですが、こういうところに来る人は、そこで自分の姿を見たくないんですよ。それで、家に帰ってこっそりと見るんです」

―これは年配層の不満を聞いて、それを取り除いた結果ということですね。

「他にも、例えばドコモの『らくらくホン』もそうです。普通の携帯電話は、高齢者にとって字が小さい、押しにくい、面倒くさいと三拍子揃っていた。で、最初に何をしたかというと、ユニバーサルデザインを取り入れたんです。つまり、年配者でも誰でも使えるという思想のもとに設計したんですね。そして、字が大きくて、ボタンが大きくて押しやすく、握りやすい、声が聞き取りやすいものを作りました。それが不の解消の最初の段階です。ただ、ユニバーサルデザインって機能的には優れているのですが、見た目がダサいっていうことが多いんです。だから、『らくらくホン』の初期に多かった不満は、「ダサいから、じじ臭いから持ちたくない」という意見でした。そこで、今度はデザインを変えてもっとスタイリッシュな、オシャレなものにしたら、ダサいのを避けていた人も買うようになったのです。これが不の解消の二段階目です。」

―そのような不を解消するビジネスは前からあったと思うのですが、昔からあるビジネスとはまた違うのですか?

「何かに対する不安とか不満とかいうのは、根源的にある共通のニーズですが、不の解消として求められるスタイルが変わってきている点で違います。

『らくらくホン』の例でいえば、今の70代後半の人では、依然携帯電話を使う人は少ないですよ。先ほどの不満の例は、携帯電話が普及したからこそ顕在化したニーズなんです。これに対して、字が小さいと見にくいというのは身体変化に伴う『不便さ』です。老眼鏡というのは昔からずっとありますが、最近は老眼鏡もオシャレになってきています。お店の内装もだいぶ変わっています。このように、ニーズは同じでも、提供側が追いついていなかった部分はいっぱいあったんです。それが、ようやく「企業活動のシニアシフト」で追いつこうとしているのが今の状態です。

同じように、この本で書いた『孫ビジネス』というのも、昔からあります。典型的なのはランドセルとか学習机、筆箱ですね。他にはひな祭りのひな人形とか、五月人形とかね。でも最近の『孫ビジネス』は、例えば、リカちゃん人形なんです」

―孫と一緒に遊ぶための玩具ですね。これは最近出て来た話ですよね。両親が共働きになったりして、祖父と祖母が一緒に遊ぶために買うというような。

「そうですね。祖父母と孫が同居していれば一緒に遊んだり、あやしたりする機会も多いのですが、同居していない家庭も多いですよね。でも、近くに住んでいることもありますから、そういうときは、ちょっと来て孫と一緒に遊ぶ。そこで小さい子が人形で遊ぶと、おばあちゃんはやることがなくなるんです。自分の人形がないからです。私の人形もあったらいいの・・・というようなニーズが生まれてきたので、リカちゃん人形におばあちゃんが登場したわけです」

―年配者が消費者として賢くなっているというお話を最初にうかがいましたが、そういった孫に対してとか、家族に対してといった、お金を使うべきところには一気に使う傾向はあるのですか?

「ありますね。逆に言うと、いざというときに支払える程度のお金を持っていますから、ここ一番のときには惜しみなく使いますね。例えば孫が生まれたとき、海外旅行に行くとき、あるいは老人ホームに入るとき。また、家のリフォームや自分の葬式とか墓の購入とか。特に後者は、子どもには黙っていて親は備えているものです。準備をしておきたいんです。子どもに負担をかけないように」

―では、これからのシニアビジネスの話をお聞きしたいのですが、今の50代が定年退職の年齢に差し掛かってくると、さらに生活様式も細分化されてくるのかなと思います。例えば離婚は、かなり一般的になってきているように思いますし、家族形態もますます多様になると予想されます。だから、これまでのビジネスの方法では、通用しなくなってくるのかなと思うのですが、いかがですか?

「まず、離婚や再婚についてですが、私たちは多かれ少なかれアメリカ文化の影響を受けています。特に今の団塊世代はアメリカ文化に思い切り影響を受けている人たちが多いんです。ただ、今の50代くらいになると、もう少し多様になりますね。

離婚については『ダメならやり直そう』という思いがある反面、経済的に大変だという現実も知っていますから、それほど多くはならないようにも思います。それよりも多くなると思われるのが、結婚も離婚もしない、つまり独身です。逆に、20代は震災の影響なのか、結婚している人多いんです。この辺は景気の動向とかで変わるでしょうね」

―独身の方々が定年退職を迎えるようになったときに、今までシニアビジネスの大きな切り口としてあった「家族」というのが、通用しなくなるのでしょうか。

「そうなると、今度は『おひとりさま』ビジネスですよね。おひとりさまになってしまう例はいろいろあるのですが、特に女性では家族の介護にかかりきりになって婚期を逃して、生涯独身というパターンが多いんです。親と二人で同居している例が多いんですよ。

そして、親が亡くなると、次は自分のことを考えます。そのとき本人は50代から60代でしょ。そうするとまずは家のこと考えるんです。独身女性は40代後半になるとマンションくらいは持っているのですが、マンションを買うときにローンを組んでいるので、だんだん冒険ができなくて転職もできなくなる。つまり、保守的になります。子どもがいないために可処分所得は多いのですが、50代後半くらいから少しずつ心細くなっていきます。そうすると機会があれば別な誰かと一緒に住みたいと思うようになってきます。女性同士も多い。有料老人ホームでも一人暮らしの女性が多いのですが、これまでは未亡人が多かったの対して、今後は未婚女性が増えるかもしれません。ただ、そうなったときに、今の老人ホームとは異なるスタイルのものが現れるかもしれませんね。自立して生活できるうちは『いかにも老人ホーム!』みたいなところは、嫌がられるかも知れません。

ただ、一般に私も含めて年少者は、年長者のことが分からないんです。つまり、年齢を重ねてから、ああ、そういうことだったのか、と気が付くことが多い。歳をとってはじめてわかる世界があります。例えば、老人ホームと介護施設といっても千差万別ありますし、自分が自立して生活できる場合と、歩行にサポートが必要な場合とでは、世界に対する感じ方は全然違います。そのときにどういう不便さ、不安があるのかは、その立場にならないとなかなか分かりません。

そういう意味では、この『シニアシフトの衝撃』は若い方に読んで欲しいですね。特に20代や30代の方々に。というのも、最近私のセミナーや講演に来られる方には、そういう年齢の方が多いからです。」

―もう年齢がだいぶ離れていますからね。

「そうなんです。自分の親どころかおじいさんの世代かな、とか想像しながら私の話を聴いている方が多いんですが、ピンとこない部分が多いみたいですね。でも、若いからといってシニアビジネスができないわけではないと思います。

例えば、先に挙げた『カーブス』も、スタッフはみんな20代、30代なんですよ。この人たちが平均58歳のおばさまたちを相手にして、怒られたり、わがままを言われたりしていますけど、それが非常に勉強になっているようです。人間的に成長していますね。シニアビジネスは、ただ年長者からお金をふんだくるというものではないんです。年長の人たちに気に入ってもらうためにはどうしたらいいかを一生懸命考える必要があり、そのことがビジネスパーソンとしての成長機会になるのです。今回の本にはそう言う話は書いていませんが、それはシニアビジネスの隠れた意義だと思いますね」

―つまり、シニアと若者とをつなぐという側面があるんですね。

「そうです。介護の世界も同じようなことが起きています。若手のスタッフは苦労しているけれど、みんな人間として成長していますよ。人の生き死にが大変身近にある。それを他人事として割り切るのか、自分事のように思うのか。自分の事だと思えれば、人生には限りがあることが実感でき、今を大事にしなきゃいけないと思うはずですよね。

私自身、偉そうに言っていますが、そういう風に思うようになったのは、実は比較的最近のことです。20代、30代の頃はそんなことを思うことはなかった。シニアビジネスという領域に足を突っ込んで、私も初めの頃は『アクティブシニア』とか言って、まだ介護が不要な元気な年配者向けのビジネスが、大きなビジネスになるんだというところから始めたんです。それは事実ですが、今は見方が変わりました。

例えば、たった今、この瞬間、元気でしゃべっていた人が、明日の朝倒れて死んでしまう可能性もあります。実際そういうことが身近にありました。こうしたことを意識すると、生きている時間の密度が濃くなっていかざるを得ない。齢を重ねるとその意識がさらに強くなる。そうすると、自分の残り時間がこれだけだとしたら、残り時間はどう過ごせばいいんだろうと考えるようになってきます」

―そう考えると、シニアビジネスは年配者を対象にしたビジネスっていうイメージですけど、生き死にや家族、いろんな背景があって、奥深いところまでケアしないといけないビジネス分野として捉えることができますよね。

「そのとおりです。そこを忘れては駄目です。この本にはたくさんのデータが載っているので、シニアってお金持っているな、市場は大きいなと思うでしょう。そう思われることは私にとっては想定内です。でも、そういう側面だけに思考がとどまると、ビジネスは上手くいきません。やはり、ビジネスは、まずお客さんがハッピーになることが必要です。そして、『あなたのおかげで不満が解消したわ。助かったわ、ありがとう。』と感謝されることが大事なんです。商品・サービスの売り手と買い手との間での「感謝の気持ちのキャッチボール」が大切なんです。お金目当てだけで参入する人や企業は長続きしません。」

―では、最後に読者の皆様にメッセージをお願いできますでしょうか。特に若手のビジネスパーソンの方々にお願いします。

「まず、もし、シニアビジネスを業務上やる必要がある、もしくは自分でやってみたいと思うならば、第一に、大雑把にやらないこと。雑にやらない。第二に、ニッチ市場を狙うこと。ニッチ市場は、競合が少ないので取り組みやすい。ニッチ市場も積み重ねれば、ビッグニッチになります。第三に、売り手の論理だけを出さない。買い手が賢くなっているので、売りたいものを押し出すだけではダメなんです。自分が買い手の立場なら、どういうことをされたら買いたくなるかを常に考えることが重要です。そういう意味では、「販売促進」ではなく。「購買支援」という心構えが大事です。第四に、始めた事業はすぐにやめない。これも大事なことですよ。『らくらくホン』だって、事業を始めて2年間はほとんど売れなかった。普通の会社なら2年売れなかったらやめますよ。だけど、やめなかった。そうしたら市場が追いついてきたんです。NTTドコモという大きな会社で体力があったこともありますが、正しいと思ったことはやり続ける。やり続けるためには上司とか周りの人に絶対に意義のある必要な事業なのだ、という信念を貫くことが大事です。

それから、若い方に伝えたいのは、時間というのは無限にあるような気がしますが、実はそうではありません。私たちは生まれた瞬間から、寿命の砂時計の砂が落ち始めています。このインタビューを受けている、この瞬間も落ちています。ところが、若いうちはそれに気が付かない。年をとっても気が付かない人もいますけれど(笑)。

でも、その砂は、確実に落ち続けています。シニアビジネスは対象の顧客が年配の方々なので、身体の不具合とか配偶者と死別するとか、本人が亡くなるという場面に対峙することも多くあります。それに真正面から対峙することで、自分はこういう風になったらいけない、こうありたいとかいう思いを自分の心のなかで自問自答しましょう。それが、自分自身の座標軸を整える良い機会になると思います。そういう意味では、シニアビジネスの対象はシニアだけじゃない。シニアビジネスに取り組む若い人の人間成長にも役に立つ。そして、なるべく税金を使わないで健全なビジネスで、会社も売り上げがあがる、お客さんも喜ぶ、自分も給料をもらって、世の中が活性化していく。私自身はそういう風にやりたいと思っているので、ぜひこの本を読んでいただいた方はそんな思いも少し持っていただけると嬉しいです」

(了)



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