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ヒットするシニアビジネスの条件とは?―村田裕之さんインタビュー(1)

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 超高齢社会を迎えた日本で、近年注目を集めているのが「シニアビジネス」、つまり中高年向けのビジネスだ。団塊世代が一斉に退職をする「2007年問題」のときには、法改正により事実上、定年が延びて65歳まで働けるようになったことから、劇的な変化は起きなかった。しかし、シニアビジネスはだんだんとその市場規模を広げつつある。
 そして、2012年となった今年、団塊世代の本当の定年退職がはじまろうとしている。東北大学特任教授で村田アソシエイツ代表の村田裕之氏は『シニアシフトの衝撃』(ダイヤモンド社/刊)で、いま起きているビジネスの動きを「シニアシフト」と名付けて、その実態を明らかにしている。

 では、今のシニアビジネスの本当の姿とは一体どのようなものなのか? 村田氏にお話をうかがった。
(新刊JP編集部)

■「年齢の変化」では切り取れなくなってきたシニアビジネス

―まず、日本では高齢化社会を迎えた後、現在に至るまでシニア向けビジネスについて語られ続けています。ここ10年間でシニア向けビジネスはどのように変容してきたのでしょうか。

村田氏(以下省略)「実はシニアビジネスのブームは何年かおきに起きています。最初のブームは1999年から2001年頃。私はそのブームを起こした一人です。続いて2004年から2006年くらい。そのピークは、団塊世代が一気に退職を始めると見なされた『2007年問題』でした。そして三回目のブームが去年あたりからやってきています。

では、具体的にどう変わってきたかというと、最初のブームではお祭り騒ぎのイベントが多かった。『アクティブシニアフォーラム』とか、『大人の文化祭』のような。」

―これからシニア世代に入っていく人たち向けのイベントということですか?

「というか、サービスする側のプレーヤーもまだ少なかったので、シニアのマーケットは大きいということを吹聴するイベントをやる傾向が強かったんです。ただ、この動きは数年後には消えました。一方、その頃もちゃんとシニア向けビジネスを立ち上げてやっている企業もいくつかあったのですが、まだ少数でしたね。

それが2004年頃からマーケットがあるぞということで、いろいろな企業が事業化の動きを始めます。そこで見事に立ち上がって今でも続いているビジネスもあります。代表的な例が『カーブス』という女性専用フィットネスです。これは私が初めて日本に紹介したものですが、立ち上がってから7年3ヶ月で国内の店舗数が1200を超えて、会員数も50万人を突破しました。会員の平均年齢は58歳です。

この時期はちょうど『2007年問題』と当時言われた、団塊世代が一斉に60歳になる時期と重なります。退職金をもらって会社を辞めて、お金も時間もあるシニアが新しいマーケットを創るのではないかと予想した例が多かったのですが、結論から言えば、大したことは起きませんでした。何故かというと、第一に、法律が改正され、定年が延びて、多くの人が働き続けた。第二に、団塊世代の半分は女性で、大半がすでに仕事は辞めていた。第三に、マーケットが多様なミクロ市場の集合体に変化し、一斉に同じような消費行動をとらなくなっていた。

そして5年が経って今度は彼らが65歳になり、世の中には今度こそブームが来ることを期待して…という雰囲気は確かにあります。しかし、今回は単なるブームでは終わらないと私は見ています」

―それはどうしてですか?

「5年前と比較すると、世の中が高齢化してきたと実感できるシーンが増えています。街を歩いていても、高齢者を多く見かけるようになりましたし、介護の話題は日常的に出てくる。社会保障の話題もそうですよね。つまり、世の中がシニアシフトしていることが一過性のイベントではなくなってきたからです。そして、5年前は『ハッピーリタイアメント』という言葉が流行しましたが、今はほぼ死語になりました。ハッピーにリタイアできるほど恵まれている人の割合が減ってきたのだと思います」

―どんどん退職金が減らされているというニュースも聞きますね。

「退職金もそうですし、会社に勤めている方は65歳以前でも早期退職したり、他の企業に転籍したりしています。また、所得も全般的に下がっているという背景もあって、5年前に比べたら、できるならばもっと働き続けていたいという方が増えているんですよ。

一方、マーケットを見てみると、情報化が進んだため、情報武装をした賢い年配者が増えました。1999年頃に、こういった方々を私はスマートシニアと呼んで、これから増えていくと予想したのですが、実際そういう方々が増えましたね」

―いわゆる、パソコンとか携帯電話を使い、情報武装した人たちのことですね。

「そうです。この10年間でも変化したことを一つ示せと言われれば、その一つは、50歳以上の年齢層のインターネット利用率が激増したことです。99年に私が日本総研にいた頃、東名阪で50歳以上を対象にネット利用率を調査したことがあるのですが、その頃はまだたったの3%でした。でも、今は60代だけを見てもかなり増えていますよ。2010年12月現在で60歳から64歳では70%が使っている。65歳から69歳でも57%が使っています」

―定年退職となる65歳以後の方でも、大半の人が使っているんですね。

「これらの世代でもインターネットが普及期に入ったといえますね。ということは、10年前の60代と今の60代ではインターネットの使い方がだいぶ違うんです。さらに言えば、10年後の60代もかなり変わってくることが容易に想像できます。

そして今、実際何が起きているかというと、先ほども述べたように、情報をたくさん持っているため消費者が賢くなっています。つまり、手ごわい消費者になったんです。売る側は、これまでのように売る側の論理を押し通そうとすると、そっぽを向かれてしまう。これは大変ですよ」

―『シニアシフトの衝撃』で興味深いと思ったのが、単なる年齢ではなくて、身体の変化とかライフステージの変化を捉えるべきだという主張です。本書の冒頭にあった「大人用紙おむつの市場が赤ちゃん用紙おむつの市場を凌ぐ」という事例は、まさしく身体の変化から需要が増えたものですよね。本書の中で村田さんは、シニアマーケットは「多様なミクロ市場の集合体」だと述べられていますが、これは人々の働き方や生活様式が以前と比べて変わってきているということなのでしょうか。

「そのご質問には、二つの質問が含まれているので、一つずつお答えしていきます。

まず、『多様化する』という意味では、今おっしゃった物事の需要が発生する背景には何らかの変化がある、というのが私の持論です。まずは、身体状態が変化することで紙おむつが必要になったり、白髪染めが必要になったり、老眼鏡が必要になりますよね。

二番目はライフステージの変化です。代表的なものとしては、男性の場合は退職ですね。退職したらみんな真っ先にやることは旅行です。つまり、現役のときは忙しくて行けなかったけれど、退職したら時間もあるし、退職金ももらっているから行きやすいんですよね。こういう変化はたくさんあって、私はこの本の中で代表的なものを5つあげています。ただ、人によってその変化の度合いは異なる。だから、消費行動は多様になる。それがこのマーケットの基本的な見方だと考えています。

実はこれまで団塊世代は人口動態上最も人数の多い世代だったので、彼らが子供から大人になるときは、新しい市場の起爆剤となりました。例えば、小学校に入る頃は小学校が足りなかったから急いで建設した。大学受験になると大学が足りないので、浪人生が多くなり予備校産業が生まれた。そして大学卒業後は就職難で、プータローの原型が生まれた。就職すると会社の独身寮が足りないから急いで建設した。そして結婚をして子どもができ所帯を持ったけれど家が足りないから住宅を大量に建設した。…こんな風に団塊世代は市場をつくってきた。

こうして見るとあたかも団塊世代が世の中の新しいブームを生み出してきたように見えるのですが、、その背景は、要するに直前の世代の人数が少なくて、需要の受け皿の容量が足りなかったということです。」

―それは単純に数が多いからですよね。

「そうです。ところが、今度も同じかというと実はそうではない。昭和22年から24年頃に生まれた方々が今、65歳になりつつあります。ところが、退職していく時期がバラバラなんです。つまり『いっせいのせ』で退職しないで、早く辞める人もいれば、65歳まで働く人もいるし、それ以上働き続ける人もいます。よく見ると、退職時期だけでなく、家族構成も違う。子どもの状況も親の健康状態も違います。子どもが学校に残っている人もいれば、みんな就職して、夫婦2人で暮らしている人もいる。家を持つまではほぼみんな同じだったけど、その後の人生は多様なんですね。私は以前、団塊世代の『塊』(かたまり)を『壊』(こわれる)っていう言葉に変えて本を出したことがあります」

―数の論理では通用しなくなってきたということですよね。

「そうです。もちろん全体として数は多いけれども、一人ひとりの消費行動は、ばらけていますから、新しい括り方が必要なんです」

―それがおっしゃっている「多様なミクロ市場の集合体」ということなんですね。

「そういうことです。その『多様なミクロ市場』を形づくっているものが、従来の年齢とか年収とか家族構成とか所得などでは切り口が見えないような価値観になっていて、ビジネスをする側としてはきめ細やかな工夫が要求されます。それが嫌な企業は、団塊世代やシニア向けの商売をするのは難しいでしょう」

(後編は11月27日配信予定)



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