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『千日の瑠璃』408日目——私は観菊会だ。(丸山健二小説連載)

 

私は観菊会だ。

どういうわけか参加者が例年の三分の一にも満たない、秋晴れの観菊会だ。わたしが嘆いているのは、決して人数のことなどではない。まほろ町が手配をしたバスに乗ってやってきた年寄り連は、端から私の主旨というものを無視した。かれらの関心事ときたら、清しい色と香りに包まれて忘我の境に浸ることではなく、単に飲み食いだけだった。

殺気立ったかれらは、鬘をつけた役場の職員の制止を振り切って、酒や食べ物に少しでも近づこうと、テントのなかへどっと乱入した。将棋倒しになって圧死する者が出なかったのが不思議なくらいだった。そのあとの進行もお膳立て通りにはゆかなかった。死を控えた者たちの凄じい勢いに呑まれた係員は、まだ昼食の時間ではなかったのに、仕出し弁当と清酒を配り、大鍋のなかにある生煮えの豚汁をプラスチックの容器に盛り分けた。

がつがつと食べ、がぶがぶと飲み、ずるずると畷りこむ音が、私をぶちこわしにした。すっかり平らげたあとでも、かれらは私のことをないがしろにした。気に入った花の下で気の合った仲間が車座になって閑談に時を忘れる、といった光景はまったく見られなかった。まだ物欲しそうにしているかれらは、もう何も出ないとわかると、隣りの町では年寄りをもっと大切にしている、と厭味を言い、ふてくされ、しまいには取っ組み合いの喧嘩を始め、懸崖仕立ての菊を数鉢ひっくり返してしまった。
(11・12・日)

丸山健二×ガジェット通信

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