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『千日の瑠璃』407日目——私は薪だ。(丸山健二小説連載)

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私は薪だ。

硬くて火持ちがよく、おまけに遠赤外線をたっぷり放って冷え切った心まで暖めてしまう、櫟の薪だ。怠け者の物乞いにしては珍しく、午前中いっぱいあやまち川の川原へ出て、からからに乾燥した私をせっせと拾い集めた。それから彼は私の山を前にして自足の笑みを浮かべ、どこかでもらった食パンの耳を頬張り、傍らにいくらでも流れている水をがぶ飲みし、腹が膨れると太陽に暖められた岩の上にじかに体を横たえ、日没まで眠った。

夜風に叩き起こされた物乞いは、ふたたび私のところへやってきた。そして、身につけていたぼろを全部脱ぎ棄て、素っ裸になってそれを私の上に置き、拾ったライターで火を点けた。やがて炎が周囲の闇を押しのけ、煙と同じような動きをする少年を浮かびあがらせた。火と闇のせいで何よりも廉恥を重んじるような人物に見える物乞いは、すでに現し世の輪郭くらいはつかみかけているように見える病気の少年に向って、こう言った。「むかしはこんな具合に死んだ者を焼いたもんだ」と。ついで彼は、一糸纏わぬ己れのぶよぶよした体を指差して、こう言った。「生まれてきたときと同じだ」と。

私は小気味のいい音を立てて爆ぜながら、垢にまみれた衣類を燃やし、もはや真っ当には生きられぬ男の魂をじりじりと焙り、ついでに古傷をいくつか暴き、「この寒空におまえの子どもはどうしているやら」と責めた。
(11・11・土)

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