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田中大臣の不認可問題の影にあるもの

田中大臣の不認可問題の影にあるもの

この記事は内田樹さんのブログ『内田樹の研究室』からご寄稿いただきました。

田中大臣の不認可問題の影にあるもの

田中真紀子文科相は秋田公立美術大など3大学の2013年度開校を不認可とした問題について6日に大学設置認可に関するあらたな検討委員会を発足させる意向を表明した。

文科相の諮問機関である大学設置・学校法人審議会の見直しをこの委員会で行い、改めて3大学の設置認可を判断することとして、来春の開学への可能性を残す考えである。

大臣は設置審議が「許可されてから工事をするならわかるが、ビルが建って、教員も確保してから、認可申請をするというのは筋違いだ」と批判した他、設置審議会の構成が委員29名中22名が大学関係者であることを咎めて、「多くのジャンルの方の意見を聞きたい」とした。

不認可という爆弾を放り投げてみたものの、世論の袋叩きに遭って、あわてて引っ込めたということである。

政治的にはそれだけの単なる失策に過ぎないが、この失策の背後には大学教育をめぐる本質的な問題点がいくつも透けて見える。

ひとつは文科相が「大学は多すぎる。もっと減らせ」という主張にはおそらく広範な世論の支持があるだろうと事前に予測していたということである。

この予測はある意味で間違っていない。

少なくとも文科相本人はそれを願っていたはずだし、彼女の周囲の政治家や財界人も同じ意見だったはずだからである。

「大学はこんなに要らない。大学生といえぬほどの低学力のものたちを4年間遊ばせておくのは資源の無駄だ」というようなことをビジネスマンはよく口にする。

これは彼らからすればごく当然の要請である。

この6月に、首相召集の国家戦略会議で、財界人代表のある委員が「大学が増えすぎて学生の質が下がった。専門知識はおろか一般教養も外国語も身についていない。大学への予算配分にメリハリをつけ、競争によって質を上げよ。校数が減って、大学進学率が下がってもいい」と主張した。

大学生の学力が低下しているのは事実である。

別にそれは大学が増えすぎたせいではなく、中等教育で基礎学力が担保されていないからである。

ほんとうに日本人の学力低下を懸念しているとしたら、「さらに教育機会を減らせ」ということを主張することは話の筋目が通らない。

知性的な成長のチャンスは、どう考えても、教育を受ける時間の長さと相関するからである。

どれほど学力が低いとはいえ、中卒、高卒で学業を終えるより、大学まで出た方がまだましである。

四年長く学校に通っているうちに、思いがけないきっかけで爆発的に知性的活動が活発化するということは少なくない。

それは大学教員として確言することができる。

大学が増えすぎて学生の質が下がったというのは事実であるが、それは「大学が増えすぎて日本の若者の知的な質が下がった」ということとは違う。

大学が増えたことによって、日本の若者たちの高等教育を受けるチャンスは明らかに増え、全体の学力は(わずかなりとはいえ)底上げされてきた。

たしかに大学を減らせば、淘汰を生き延びた少数の大学への入学は困難になり、入学者については「平均学力が前より上がった」という結果が見込めるだろう。

だが、それは「日本の若者たちの平均学力が上がった」ということを意味しない。

若者たち全体の平均学力は下がる。

必ず、下がる。

では、なぜ若者たちの平均学歴が低下し、平均学力が低下することを財界人は要求するのか?

もちろん、それが彼らに大きな利益をもたらす可能性があるからである。

中等教育の内容を理解していないものは大学に入学させないという縛りをかければ、おそらく現在の大学生の3分の2は高卒で教育機会を終えるだろう。

そうすれば毎年数十万の低学力・低学歴の若年労働者が労働市場に供給されることになる。

財界人たちはこれを待ち望んでいるのである。

この最下層労働者群は信じられないほどの時給で雇用できる可能性がある。

生産拠点の海外移転が進むのは、国内では人件費が高いからということが最大の理由であった。

人件費が大幅に下がってくれるなら、何も海外に出ることはない。

海外は、言葉は通じないし、インフラは不十分だし、政情も不安定である。

政情の不安定がどれほど巨大な損失をもたらすか。

そのことは中国に生産拠点を移した企業が今回の反日デモで骨身にしみたことである。

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