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『千日の瑠璃』399日目——私は芸術だ。(丸山健二小説連載)

 

私は芸術だ。

何かにつけて権威の頂点に立ちたがる国家から、一級品としてのお墨付きを与えられて足れりとする、その程度の芸術だ。このような鄙に文化的なものは一切ないと思いこんで嘆くまほろ町の文化人的文化人諸氏は、厳重な梱包と慎重な輸送で運ばれてきた私が落成したばかりの公民館へ搬入されるところをひと目見ょうと押し掛けてきた。

そして、私の前に立って動かない、ベレー帽のようにして鬘をかぶっている役場の職員が、私が如何に偉大であるかについて、へりくだりながらも、さも私と関係があるかのような口調で、得々と語った。ときには古物を漁ってみたりするかれらは、私そのものよりも、私から片時も眼を離さない警備会社のいかつい男や、私の時価や、私がもらった賞などに気圧されて、神韻縹渺たる作ときめつけた。

衒気満々のかれらは、我先にと讃辞を投げ掛けてきた。だがそれはどれも、パンフレットに紹介されている、お仕着せの、こじつけの、利害に目端のきく御用評論家の誇大な言葉の受け売りでしかなかった。かれらは私に感動しているのではなく、己れの感動の演技に感動しているのだった。だが、さいわいにもかれらはそんな自分にまったく気づいていなかった。かくして私の地位はますます安泰であり、少なくともこの島国のなかでは、私の名声は永久に保証されたも同然だった。

青尽くめの少年が玄関先で追い返された。
(11・3・金)

丸山健二×ガジェット通信

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