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『千日の瑠璃』394日目——私は想起だ。(丸山健二小説連載)

 

私は想起だ。

少年世一の不完全でありながら完全でもある万事に明け透けな脳から次から次へと生まれる、想起だ。あるともないともいえない世一の青みがかった魂は、絶え間なく震えつづける肉体に刺戟を受けながら、もしくは、それがこの世の常だとさえずる青い鳥に影響を受けながら、真実在に類似した何かを休みなく見出している。正体もなく眠りこけているときでさえもだ。世一は廃人ではない。

ときとして世一は、生まれてくる前にどこかで得た体験と仕入れた知識で以て、私を仰天させることがある。たとえば、笛や太鼓で囃されてひと差し舞った日々が、たとえば、立憲君主制の打倒に欠かせない言葉の数々が、突然甦るのだ。彼は今を生きる者でありながら、同時に過去をも生きている。未来を生きることだってないとはいえない。

世一の体と心のあいだに截然たる差はなく、双方のこの世に対する見解に扞格があるというわけでもない。現世とも前世とも後世とも黙約ができているらしい世一でも、決して私なんぞに手玉にとられて混乱することはない。あったとしても、谷間の小流を渡った途端に、大雨で逆流する川の水を眺めた一瞬に、古池の水が汲み干されると同時に、世一はすっと私から離れて、ふたたび正常な時の流れに身を委ねることができる。世一に棄てられ、置き去りにされた私に眼をつけるのは、狛犬のような黒いむく犬とでかいぺンだこが自慢の男ただひとりだけだ。
(10・29・日)

丸山健二×ガジェット通信

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