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『千日の瑠璃』388日目——私は哀歌だ。(丸山健二小説連載)

 

私は哀歌だ。

草の色をした深夜、半生を病床に送る老婆が、会心の笑みを漏らす月に向って歌う、哀歌だ。土気色の顔の裂け目からゆっくりと跡切れ跡切れに発せられる私は、過ちを謙虚に認めそうなまほろ町を包む闇にしっくりと馴染む。私は虚空に高々と舞い上がり、雑駁な知識と、世に害悪を及ぼす邪な考えと、鄙俗な風習にこだわって生きる、ひと筋縄ではゆかぬ者たちの心胆を寒からしめる。

私は、延々と褶曲した山脈で超俗的な生活に浸る、人付き合いのわるい、ときには血迷うこともある男の総身に染み渡り、赤ん坊と、その子が有する可能性に頬擦りをする欲深な母親と、さながら倒木のようにのしかかってくる卑しい性根の男の眼を覗きこみながら着物の胸をはだける淫婦と、堪え難い性的な侮辱などまだ一度も受けたことがない、うら恥ずかしい年頃の娘の脇をすり抜けて行く。

そして私は、権力をほしいままにできる日を夢見て磊落に笑う、俗才を備えた政治家の卵と、無縁塚を暴いたことさえある、全壊家屋のように小気味よく崩れた魂や肥満した体を持つ物乞いと、その他大勢の、不徳漢でも摂生家でもなく、条理に適った言動に徹する者でも、身分の尊卑ばかりを問う者でもない、多くの人々の心を浄化し、正しく一巡する季節と共に、さもなければ、眼識のある批評もする口達者なオオルリと共に、夢幻の世を生きつづける少年世一を安らかな眠りへと誘う。
(10・23・月)

丸山健二×ガジェット通信

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