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同和地区を掲載することは「絶対に」許されないのか?

同和地区を掲載することは「絶対に」許されないのか?

今回は橘玲さんのブログ『Stairway to Heaven』からご寄稿いただきました。

同和地区を掲載することは「絶対に」許されないのか?

「ハシシタ 奴の本性」について、『週刊朝日』に編集長の「おわび」*1が掲載された。今後は第三者機関が記事掲載の経緯を検証し、結果を公表するという。結論が出るまでにはかなり時間がかかるだろうが、今後の議論の参考に事実関係を整理しておきたい。

*1:「週刊朝日10月26日号の橋下徹・大阪市長に関する記事についての「おわび」」 『朝日新聞出版』
http://publications.asahi.com/news/276.shtml

最初に、以下のことを断わっておく。

「ハシシタ 奴の本性」は、出自や血脈(ルーツ)を暴くことで橋下市長を政治的に葬り去ることを目的としている。だからこれは、ノンフィクションというよりもプロパガンダ(政治的文書)だ。

記事のこうした性格を考えれば、橋下市長が、記者会見での回答拒否を含むあらゆる手段を行使して『週刊朝日』に謝罪と連載中止を求めるのは当然だ。一連の行為が正当かどうかは、今後、有権者が判断すればいいことだ。

著者である佐野眞一氏の、「両親や、橋下家のルーツについて、できるだけ詳しく調べあげ」るという手法に反発したひとは多いだろう。私もこうした手法には同意しないが、だからこそこの事件は表現の自由についての本質的な問題を提起している(正統なノンフィクションであれば、そもそもこんな問題は起こらない)。

原理主義的なリバタリアニズムでは、表現の自由こそが絶対でプライバシーは権利として認めない。私はこうした異端の主張で議論をいたずらに混乱させるつもりはないが(この論理に興味のある方はこちら*2をどうぞ)、表現の自由とプライバシー権は相対的なものだというより穏当な主張なら多くのひとが同意するだろう。

*2:「不道徳な経済学──擁護できないものを擁護する (講談社プラスアルファ文庫)」 ウォルター・ブロック (著), 橘 玲 (翻訳) 『Amazon』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062814145/

『週刊朝日』編集部の「おわび」では、連載を中止した第一の理由は、「同和地区を特定」したことだ。もちろん、正当な理由なく同和地区を誌面に掲載することが許されるはずはない。

だが、同和地区のタブーは絶対的なものではないはずだ。同和地区を特定することでそこに住むひとたちが被る不利益よりも、社会全体がより大きな利益を得ることができるならば(あるいはそう確信しているならば)、表現者は自らの意思でタブーを踏み越えていくことができる。

ここでは、こうした視点からあらためてこれまでの経緯をまとめてみたい。

「ハシシタ 奴の本性」掲載まで

(1) 『新潮45』2011年11月号にノンフィクション作家・上原善広氏の「「最も危険な政治家」橋下徹研究 孤独なポピュリストの原点」が掲載された(ちなみにこの記事は第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を受賞している)。

上原氏は被差別部落出身であることをカミングアウトしており、『日本の路地を旅する』*3で第41回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している(上原氏は中上健二にならって被差別部落を「路地」と呼んでいる)。

*3:「日本の路地を旅する (文春文庫)」 上原 善広 (著) 『Amazon』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167801965/

「橋下徹研究」で上原氏は、橋下市長の実父が大阪府八尾市の被差別部落出身であることと、橋下という姓がもともと「ハシシタ」と呼ばれていたことを書いた。また実父の弟(橋下市長の叔父)に話を聞き、兄(実父)が土井組というヤクザに属していたこと、同和事業を引き受けて成功した後、放漫経営で会社を倒産させ、ガス自殺したことなどを語らせている。この記事で橋下市長の叔父は、「わしもアニキも同和やゆうのに誇りをもっとった」と述べ、その出自を自ら明かしている。

(2) 『新潮45』の上原氏の記事を受けて、『週刊新潮』11年11月3日号は、「「同和」「暴力団」の渦に呑まれた独裁者「橋下知事」出生の秘密」を、同日発売の『週刊文春』も「暴力団組員だった父はガス管くわえて自殺 橋下徹42歳書かれなかった「血脈」」を掲載した。これらの週刊誌も、実父の生まれた被差別部落を実名で掲載している。

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