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『千日の瑠璃』387日目——私は教室だ。(丸山健二小説連載)

 

私は教室だ。

なぜか見る者に眠気を催させるまほろ町立第一小学校、その古い木造校舎の、最もあやまち川に近い教室だ。これまでに私のなかで響きわたった教師の上滑りな言葉を大別すると、およそ二種類に分けることができる。「天皇は神だ」という未来を閉ざしてしまう甲高い声が、あの日を境に、「我々は自由で平等だ」という嘘っぱちに取って代った。要するにただそれだけのことだ。

いずれにせよ、私が毎年事務的に世に送り出している生徒は、たったの一種類でしかない。相も変らず私は、迂愚な権威主義者と事大主義者を効率的に育てる場にすぎないのだ。さも解き放たれているかのように見える今時の子どもらが私のなかで身につけるのは、理知に輝く瞳ではなく、深い学殖の素地でもなく、天皇に代る相手を見つけて過剰に従うための基礎だ。これまでに私が仕立てあげたのは、お上の後ろ盾を得たときのみ屈強になり、果断な行動に出る兵士と、教唆煽動や威嚇に弱い腰抜けの国民のみでしかなかった。

そして今夜、久しぶりに私だけの夜学生が訪れた。吹き降りでずぶ濡れになった少年世一が、例によって窓から押し入り、例によって暗闇のなかで教師と生徒の二役を見事に演じ切った。教師は黒板にオオルリの絵を描いて、「わたしはこの鳥に従うが、きみはどうかね?」とたずねた。すると生徒は、「従わせようとしない者に従うでしょう」と答えた。
(10・22・日)

丸山健二×ガジェット通信

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