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『千日の瑠璃』374日目——私は寝床だ。(丸山健二小説連載)

 

私は寝床だ。

少年世一の震える脳が必要に違いないと考え、彼の震える両手が苦心して作りあげた、オオルリの寝床だ。枯れた草と緑色の細い針金と世一の至情を材料にして完成した私は、籠の奥まったところにしっかりと括りつけられた。しかし、大きな誤算があった。オオルリは私を単なる異物と見做し、頑に拒んだ。私に怯えてばたばた暴れる青い烏に向って、世一は懸命に説明した。布団のなかへ潜りこんで顔だけ突き出してみせ、夜には必要な品であることを示し、とまり木よりもずっと快適な眠りに就けることを教えようとした。

ところが残念なことに、私は最後まで受け入れてもらえなかった。世一は私を籠から出して紙袋に入れ、ペットショップの店主にたずねるべく丘を下って行った。その途中で彼は、鳥の巣を幾つも見た。見掛けるたびに彼は、「それ見ろ」と呟き、「みんな持っているじゃないか」と言って、どれよりも私のほうが立派であることを再確認するのだった。

禁鳥の飼育方法にも精通している店主は、世一にこう言った。「あの鳥に巣は要らないんだよ」と。不服そうな世一に、彼はこうつづけた。それ無しでもこれまで生きてこられたではないか、と。また彼は、籠そのものが寝床であり、世一の家そのものも巣である、と言った。納得した世一は私を湖畔の屑籠へ放りこみ、波打ち際で大の字になって眠っている物乞いをまたいでから、自分の寝床へと帰った。
(10・9・月)

丸山健二×ガジェット通信

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