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『千日の瑠璃』325日目——私は土星だ。(丸山健二小説連載)

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私は土星だ。

高熱にうなされる少年世一の夢のなかへ突如として出現した、妖美漂う、迫真の土星だ。悪食家の物乞いの豪勢な昼食に招かれた世一は、出された物をろくに確かめもしないで次々に胃袋におさめた。食べながら世一は、気宇広大な人物を気取って天体の仕組みについて喋りまくる物乞いの話に耳を傾けた。

物乞いは単なる私見でしかない荒唐無稽な説を、断定的な口調で語った。人々と同様、星々もまたいたるところで凄絶な死闘を繰り広げており、そうするほかに生と存在を確認するすべはないのだ、と言い切って、いつもながらの凄じい食べっぷりで腐りかけた物まできれいに平らげた。彼は何ともなく、むしろ胃の調子がよくなったくらいだが、しかし世一のほうはそうはゆかなかった。丘を登って行く途中で腹痛を覚え、這うようにして家へ辿り着いたときには、玉のような脂汗が額をびっしりと埋めていた。

私は、独りで苦しむ世一に私を幾重にも囲む回転鋸の刃のようなリングを見せてやり、ついでに赤い渦を持つ隣りの星まで紹介してやって、この世が故意に造られたものではなく、誰かの過失による産物でもなく、調和の上に成り立っていることを教えようとした。そんな私と世一の耳元でさえずるオオルリの見解が、期せずして暗合していた。私たちは力を合せて、物乞いが不用意に与えた腐った食べ物と毒の哲学を追い払おうと頑張った。
(8・21・月)

丸山健二×ガジェット通信

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