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『千日の瑠璃』323日目——私は覚悟だ。(丸山健二小説連載)

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私は覚倍だ。

挨拶代りに殺害された組長の補充のためにまほろ町へ送りこまれてきた男が抱く、それ相応の覚悟だ。彼はまず、浮き足立っているひとりと、逸る心を抑えられそうにないもうひとり、計ふたりの配下に血書を認めさせた。それから彼は、改造や密造された安物ではない大型の自動拳銃を長身の青年の胸元につきつけて、「死ぬときはいっしょだぞ」と言った。今は額縁におさまってしまった前任者の肖像が、一瞬のうちに穴だらけになった。

そして私は、指無しの手下の胸中を推量して、あてにならない男だと判断し、長身の手下を観察して、目をかけるに値する男だと思う。新組長は染みひとつない真新しい長椅子に寝そべって打ちくつろぎ、薬室のなかへ弾丸と共に私を閉じこめ、片時も離さないカセットテープとラジカセを使って、三階建ての黒いビルいっぱいに野鳥のさえずりを流す。

深くて青い山のどこかで辛抱強く録音された鳥の声は十数種を超えるが、しかし突出した三つのさえずりが全体を引き締め、大きな流れを作っている。ウグイスで始まり、それをコマドリが引き継ぎ、最後はオオルリが締めくくるといった構成だ。オオルリのさえずりだけが銃声も遮る分厚い壁を貫いて通りへ届き、己れの魂に導かれて暑気のなかをふらふらと歩く少年の耳に達する。彼は怪苛な顔をして立ちどまり、ビルを見上げ、私の方へ向って「殺すんじゃないぞ」と、鳥の言葉でわめく。
(8・19・土)

丸山健二×ガジェット通信

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