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『千日の瑠璃』237日目——私は臓物だ。(丸山健二小説連載)

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私は臓物だ。

まほろ町の夜を狂ったように突っ走る改造自動車に撥ねられた猫が、気前よくぶちまけている新鮮な臓物だ。この曲りくねった道を通るクルマはすでになく、路面には壊れたウインカーの破片と、月の光と、私だけが気持ちよく散乱し、まもなく訪れる夜明けに向って毒突いている。そしていよいよ太陽が孤軍奮闘する時間帯が迫り、闇の神秘の化けの皮が剥がれると、私の上空を鳶が旋回する。

鷹の嘲弄にめげずに生きる鳶の数はみるみる増え、やがて影の渦を作る。思い掛けない馳走を発見したかれらは、空から電線へ、電線から地面へと舞い降り、抜け目なく辺りを見回しながらこっちへ近づいてくる。望むところだ。私は連中の丈夫な胃袋におさまり、そのあと翼を動かす筋肉の一部となって、天翔けたい。私に残された浮かぶ瀬は、もうそれしかないのだ。

ところが、烏と同様、恥辱を招くことなど何とも思っていない鳶たちは、人の気配がするたびに、私から一斉に離れてしまう。単に人間を恐れているというだけではなさそうだ。おそらく、私なんぞにはまったく興味がないというところを見せたいのだろう。通りかかった青い帽子の少年が、やにわに私を素手でつかみ、足も使って引きちぎり、草むらに隠れて体裁を繕いながらもじもじしている鳶に投げつける。少年はきっぱりと言う。自分の餌を食べるのに恥ずかしがる鳥がどこにいる。
(5・25・木)

丸山健二×ガジェット通信

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