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『千日の瑠璃』193日目——私は黒服だ。(丸山健二小説連載)

 

私は黒服だ。

湖畔の宿《三光烏》にぞくぞくと詰めかけるよそ者の男たち、かれらがひとり残らず着ている黒服だ。私は街道をそれて次々に入ってくる高級乗用車と共に、まほろ町の様相を一変させ、麗かな春をかき乱している。そして駆けつけた警官たちは、兵隊蟻の群れに似た私たちの行手を阻み、包囲して、ポケットのなかを入念に探ってゆく。ちょっとした小競り合いが生じ、短い怒号が飛び交ったりする。しかし、決して大事には発展しない。

恫喝の手段に出ることに馴れている男たち、人並み外れて態度が横柄な男たち、上層部の差し金でどんな手荒な真似でもやってのける男たち、互いに策応して事を運ぶのが巧みな男たち、何とも名状し難い惨状をいつでも作り出せる男たち、絶えず意味ありげに目交ぜする男たち、必要悪をどこまでも言い通す男たち、恣意的選択を繰り返した結果ほかの仕事に就けなかった男たち。かれらはのどかな天気のなかで、裏の世界が厳存することを、恐る恐る見物に集まった住民たちに見せつける。私は陽光の一部を確実に吸い取って、そこに闇に似た空間を作り、恐怖をばら撒く。礼儀に法った応対で客を迎える三人のやくざ者は、出席者の頭数が思いのほか少ないことを心配している。だが、その数が予想外に多いと見た刑事は、苦り切った顔で、鬘をつけた役場の職員に言う。「こうなったらあとは住民運動を盛りあげてもらうしかありませんなあ」
(4・11・火)

丸山健二×ガジェット通信

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