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『千日の瑠璃』186日目——私は街道だ。(丸山健二小説連載)

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私は街道だ。

まほろ町と世間を結び、誤った観念と世人の眼を瞞着する情報を昼夜を分かたず運ぶ、古い街道だ。そろそろ舗装し直す時期にきている私だが、しかし日没を控えたこの時間帯だけは、完成したばかりの高速自動車道よりも立派に見えるはずだ。今、私の面は斜陽を受けてぴかあっと光っている。その光は輝ける未来を予告しているのかもしれず、もしくは、世界各地で人為を以て核分裂が繰り広げられる時代の到来を暗示しているのかもしれない。そして、前後左右から警笛と罵声を浴びせられながらも、少しも動ずることなく、綱渡りよろしく中央の白線をふらふらと歩いて行く少年の姿は、金儲けに汲々とし、欲しい物だらけでも結局空夢に終ることの多い人々の運命を表象しているのかもしれない。

今年初めて陽炎を立ち昇らせた私の上を、勃々たる野心を姑息な手段で実現させたがる者が通り、全財産を擦ってやっと故地を訪ねる気持ちになった者が通り、仏を渇仰するしかない者が通り、いくら待っても日の目を見ない絵を抱えた者が通り、滞りなく終った結婚式に満足する者が通り、雲隠れを本気で考えるこそ泥が通り、反対派の説伏を命じられた者が通り、他聞を憚る内容の書類を持った者が通り、「面白え世の中じゃねえか」とうそぶく者が通って行く。少年世一がかれらの影を踏み越えて、眼には見えぬ不定の足形を私の上に残して、堂々と通って行く。
(4・4・火)

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