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『千日の瑠璃』160日目——私は悲しみだ。(丸山健二小説連載)

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私は悲しみだ。

ご多分に漏れず少年世一にも訪れ、茫漠たる前途を瞬時に閉ざしてしまう、月並みな悲しみだ。まだ少ししか生きていないせいで堪える力を身につけていない世一を、私は階段の途中で待ち伏せ、数段登ったところを一気に襲った。すると世一は上がることも下がることもできなくなり、何がどうなったのかさっぱりわからなくなって、震える体を更に震わせ、しまいにはくの字に折り曲げ、そのままの恰好で午前中いっぱいを過した。

助ける者が家にいないのをいいことに、私は手加減しないで責め、金や白金を融かしてしまう王水のように、世一の影さやかな胸のうちをどろどろにしてやった。世一は正午を告げるチャイムにしがみついて、泣きながら階段を登り詰め、廊下を四つん這いになって進み、やっとの思いで自室へころがりこむと、労せずして飼い馴らした野禽に助けを求めた。オオルリにぐっと睨まれた私は、思わず逃げ腰になった。さえずりでも浴びせられたら、おそらくひとたまりもなかっただろう。

ところがどうしたことか、その青い鳥は私を追い払おうとはせず、いつまでも沈黙していた。世一は烏籠に縋って泣きじゃくった。やがて私は、ひと声も発しない鳥の意図に気づいた。世一が自身の力で私に立ち向うのを、辛抱強く待っていたのだ。しかし世一は、私に打ち克つことができなかった。私を叩き出したのは、泣き疲れたあとの眠りだった。
(3・9・木)

丸山健二×ガジェット通信

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