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『千日の瑠璃』153日目——私は刺青だ。(丸山健二小説連載)

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私は刺青だ。

痩身長軀の青年の背中一面に直線と曲線を錯綜させ、眼光鋭い鷹を中心に据えてまわりに複雑怪奇な紋様をちりばめた、刺青だ。私はまだ未完成だ。しかし彼は、クルマで丸一日かかる繁華な都市へ通う時間も、並ぶ者がない腕前の彫り師に払える金も持っているにもかかわらず、いつまでも完成させようとしない。彼はこう考えている。胆力を練りに練って男を磨けば、私無しでも渡世は可能だ、とそう信じている。

彼は光を嫌って影のなかへ身を投じた者ではない。この男が同業の連中と違っているのは、最悪の家庭環境や怠惰な性根によって世間の裏側へと追いやられてしまったのではないことだ。彼は光のなかの光よりも、影のなかの光を本当の光と見ている。彼は凜とした意志の力を一点に集めて良俗に背き、悪行をよしとし、その証しとして私を背負っている。それこそが彼の特徴であり、彼の強みだ。

そんな彼にとって私は、決して破綻の象徴などではなく、進退に窮した際に居直るための便利な小道具でも、あるいは、逃げ腰を厳しく糾弾するものでも、あるいはまた、蛮勇の後ろ盾となるものでもない。ましてや、死に場所を捜すための地図ではない。私は、空中でオオルリをひっつかむ鷹の爪で以て、足音を忍ばせて背後に迫る敵を排除し、正面から襲ってくる殺されても詮方ない好敵手を鮮やかに始末する……たぶん、そのはずだ。
(3・2・木)

丸山健二×ガジェット通信

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ウェブサイト: http://marukuen.getnews.jp/

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