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『千日の瑠璃』152日目——私は骸骨だ。(丸山健二小説連載)

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私は骸骨だ。

まほろ町立中学校の理科室の片隅に吊るされ、世を儚んでがっくりと首をうなだれている、教材用の骸骨だ。歪みに歪んだ顔を窓ガラスに押しつけて、私のことを興味深げに見つめる少年は、休校のせいで生徒や教師がいないことをよく知っている。その証拠に、眺めているだけでは満足できなくなると、彼は突然握りこぶしで以て窓を叩き割り、予想以上に器用に鍵を開け、大胆に侵入してきた。

そして彼は、ところ狭しと並べられた動物や植物や鉱物などの標本には眼もくれず、全身の筋肉を大きく波打たせながら、私の方へやってきた。被は気怠い感じの口調で、「おまえ、誰?」と訊いてきた。私はわざと無念遣る方ない表情を作って、「おれはおまえだよ」とそっけなく答えた。たしかに私たちには似ている点が幾つかあったのだ。たとえば、揺すぶられたときの私の動きは、彼の物狂おしいほどの体の動きにそっくりだった。

少年はいまいましそうに舌打ちし、「おまえがおれならこうしてやる」と言うが早いか、奇怪な振る舞いに及んだ。彼は私を外へ運び出し、校庭の真ん中まで引きずって行き、どさりと放り出すと、積もった雪を掘り始めた。ところが掘っているうちに目的を忘れ、雪と私の区別がつかなくなり、私よりもずっと目立つ白い烏のあとを追ってどこかへ行ってしまった。青空の下で大の字になった私は、少年の骨格を想像して、からからと笑った。
(3・1・水)

丸山健二×ガジェット通信

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