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『千日の瑠璃』105日目——私は幸運だ。(丸山健二小説連載)

 

私は幸運だ。

どんなに辺鄙な土地だろうと二十年に一度くらいは訪れる、しかし大方の人々は一生かけても巡り合えない、幸運だ。不運と同様、私の出現もまた突然だ。今回の私は、愚鈍そのものの顔つきの、これまでいいこともわるいこともなかった高校生が生まれて初めて買った、それも一枚だけ買った宝くじのなかから飛び出した。

そして私は、僅か一時間でまほろ町を駆け抜けた。人々はまず何よりも金額を知りたがり、百万の桁を超えていないことがわかるとひと安心し、かれらにしては比較的素直に私を受け入れた。これがもしも家を新築できるような額だったなら、おそらくただではすまなかっただろう。嫉妬の矢面に立たされただけではなく、近頃なぜか倍増した人を陥れたがる連中によって、袋叩きの目に遭わされたに違いない。ほどよい金額は私を健全に保ち、生きても生きても何もない人々を落胆させることはなく、温かい牛乳のようにかれらの胃に落着いた。また、大学進学の資金の一部になるという噂も、好ましく受けとめられた。

子がなくて絶家しようとしている者も、転地療養を医者に勧められた者も、商売に失敗して友人の家に仮寓させてもらっている者も、人の世の甘酸を舐めた者も皆、腹癒せにわけのわからないことをわめいたりせず、何の長所もない、青尽くめの少年をひと目見ただけで、心の均衡を容易に保つことができたのだ。
(1・13・金)

丸山健二×ガジェット通信

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