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『千日の瑠璃』98日目——私は惑星だ。(丸山健二小説連載)

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私は惑星だ。

でこぼこした表面に自らを省察できないまほろ町を載せて、飽くことなく自転と公転を繰り返す、水の惑星だ。私は、空々漠々たる大宇宙を飛び交う重力波の間隙を縫って、私自身のために回る者でありながら、同時に、ただ生きていることに歓喜する少年世一と、彼のひたすら美しいオオルリのために回る者でもある。私は、死んでしまった多くの星々に囲まれて、さながら水母か何かのように現し世の片隅にぽっかりと浮かんで漂う生きた星であり、また、死んだ後も生きている星々に支えられてこの世に厳然ととどまるに違いない、ありきたりの星である。

新年にあたって、私は世一にこう呼び掛ける。何も恐れることはない、と。だが、決して天佑には期待するな、と。私が輝ける恒星のまわりを回るように、おまえは煌く青い鳥を巡って回るがいい、と。私が回れなくなるまで回るように、おまえも回ることができなくなるまで回りつづけるがいい、と。そのあとで、私はこうつけ加える。私もおまえも、意味もなく寂滅や無へ吸い寄せられてゆく者ではない、と。絶対にそうではない、と。

むろん、応答はない。オオルリは増長が過ぎるほどの声を発している。世一はモグラも顔負けの勢いで新雪を掘り返し、スコップを使って私の表面を薄く剥ぎ、そこに凍死したホオジロの骸を埋めている。彼の青い魂を巡って、生きている証しの情動が回っている。
(1・6・金)

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