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『千日の瑠璃』57日目——私はベンチだ。(丸山健二小説連載)

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私はベンチだ。

年がら年中ゲートボール場の片隅に置きっ放しにされている、悲哀に満ち満ちた、粗末なベンチだ。腐食が著しい私の上には今、老いて体重がめっきり軽くなった四人の男が、貧弱な腰をおろしている。小半日だらだらとつづいた試合が終了したあとも、かれらは家へ帰ろうとしない。そうすることで、きょうという日を少しでも長引かせようとしている。そうすることで、家族の心の負担を少しでも減らそうとしている。

四人のまほろ町への思い切っての没入は、残照に彩られ、輝き、世間の情に寄り縋る気持ちを消している。ほどなくかれらのもの思わしげな眼ざしは、あやまち川が作る風に押されながら、身をよじるような歩き方でやってくる少年に注がれる。その少年が世の苦しみを一身に背負っているとみたかれらは、堪らなくなって呼びとめる。そして少しずつ席を詰め、「ちょっと休んでいけや」と言う。

少年は立ちどまり、死の気配のあまりの濃さにいくらかたじろいだものの、すぐに私の端に坐る。私がみしっという音を立てたのは、少年の予想外の重さのせいだ。だが、体重のことではない。魂の重さときたらそれはもう尋常ではなかった。二度目のみしっという音に驚いて、四人は一斉に立ち上がる。その拍子に私は均衡を失ってしまい、少年ともどもひっくり返る。年寄りたちは少年よりも先に私を助け起こす。
(11・26・土)

丸山健二×ガジェット通信

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