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お呼びでない? 前大統領突然参上(朝日新聞前パリ支局長 国末憲人)

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お呼びでない? 前大統領突然参上

 在任当時から口は軽かった。前言を翻しても平気だった。とはいえ、政界引退からまさか3カ月で表舞台に戻ってくるとは、誰も予想しなかっただろう。しかも、とんだお騒がせ発言とともに、である。

 フランスのサルコジ前大統領が今月、頼まれもしないのにシリア反政府勢力代表と突然電話会談し、オランド政権に軍事介入を呼びかける声明を発表した。5月のフランス大統領選に敗れて政界から引退し、悠々自適の生活をしているはずの前大統領である。支持母体の右派からは支持の声が出ているものの、対する左派や中道は驚き、あきれている。対シリア戦略を練っていた外交当局は、突然の横やりに「二重外交になりかねない」と困惑している。

 サルコジ氏は8月7日夜、シリア反体制派の中核組織「シリア国民評議会」のシーダ議長と共同で短い声明を発表した。2人は40分にわたって意見を交換したことを明らかにしたうえで「状況はリビアのケースと同じだ。虐殺を防ぐために、国際社会が迅速な行動を起こすべきだ」と述べた。

 サルコジ氏は大統領在任中の昨年3月、米英などとともに多国籍軍を構成してリビアに軍事介入し、カダフィ政権を崩壊させた。これと同様の対応をシリアにもすべきだ、との主張である。当時リビア介入をサルコジ氏に働きかけたといわれる仏哲学者のベルナール=アンリ・レヴィ氏らが最近、シリアへの介入の必要性を訴える主張を展開しており、サルコジ氏の言動もこうした動きに乗ったものだとみられている。

 もっとも、フランス外交当局はこの発言を唐突と受け止め、大いに困惑している。化学兵器を大量に保有しているとみられるシリアへの軍事介入には泥沼化の懸念が拭えず、欧米にも慎重な意見が多い。アサド政権崩壊後の受け皿となるはずの反体制勢力側にも、残虐行為への関与が指摘されたり、イスラム過激派が浸透しているとの情報があったりと、様々な疑念が持たれている。「アサド政権を倒したら平和が訪れる」といった単純な構図ではない。ファビウス外相は「サルコジ氏がこのような重大なテーマで波風を立てようとしたのには驚いた。前大統領には、もっと別の行動を期待している」と述べ、不快感を隠さなかった。

 多くのメディアも、サルコジ氏の言動には批判的だ。ラルザス紙は「軍事介入とバカンスに出かけるのとは訳が違うと、前大統領自身よくわかっているはずだ。シリア問題は、パフォーマンスの口実に過ぎない。前大統領の発言は、国民や支持者に忘れられたくなかったからではないか」と分析した。

 サルコジ氏は大統領選前、「もし敗れたら、私に関する消息を聞かなくなるだろう」と語り、事実上の引退を表明していた。実際、落選早々に周囲との連絡を絶ってカーラ夫人とモロッコ・マラケシュに出かけ、優雅な休暇を楽しんでいた。しかし、与党だった「大衆運動連合」(UMP)はこの間、後継者を巡ってフィヨン前首相とコペ党幹事長との間で対立が深まり、内紛状態に陥っていた。

 自らの政党の迷走ぶりを見たサルコジ氏には「やはり俺がいないと」といった意識があったのかも知れない。もっとも、サルコジ氏は引退といいながら幹部らと頻繁に電話連絡を取っており、党人事にも介入していた節がうかがえる。計算ずくで早々に戻ってきた可能性も否定できない。

 今回の発言に対し、サルコジ政権で予算相を務めたペクレス氏は20日、「いくつかの条件が揃えば、サルコジ氏は政界に戻ってくる」と述べ、完全復活を期待した。最近の世論調査でも、5年後の大統領候補としてUMP支持者の53%がサルコジ氏を挙げており、前大統領再登板への期待は確かにくすぶっている。

 一方、社会党のオブリ党首はサルコジ氏の言動を「国家の行動を国民一致して支えていかなければならない時に、無責任な発言だ」と非難した。中道政治家のサルネス欧州議会議員も「難しいテーマだけに、対応を一本化する必要がある」と批判している。

 お呼びでないのに外交に介入した元首脳と言えば、今年4月にイランを突然訪問した鳩山由紀夫元首相が思い浮かぶ。アフマディネジャド大統領と会談したものの、その場で国際原子力機関(IAEA)を批判したとか、イラン寄りの発言をしたとか、イラン側から散々吹聴された。本人は必死で否定したものの、かえって事態をこじらせただけで終わった。

 首脳経験者には、慎重で気品のある行動が求められる。自らのそのような立場を理解せず、軽い行動で混乱を招いた点では、サルコジ氏の今回の言動も似たり寄ったりだ。本人にそんな意識は全然ないだろうけれど。

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国末憲人 Kunisue Norito
朝日新聞前パリ支局長
1963年生れ。85年大阪大学卒。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。富山、徳島、大阪、広島勤務を経て2001-04年パリ支局員。外報部次長の後、07-10年パリ支局長を務める。現在はGLOBE副編集長。著書に『自爆テロリストの正体』(新潮新書)、『サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領―』(新潮選書)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』(いずれも草思社)、共著書に『テロリストの軌跡―モハメド・アタを追う―』(草思社)などがある。

※この記事はニュース解説サイト『Foresight』より転載させていただいたものです。 http://fsight.jp/ [リンク]

※画像:「SALLE DES SEANCES」By marsupilami92
http://www.flickr.com/photos/marsupilami92/5004527815/

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