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『ロシュフォールの恋人たち』を400回以上観た著者が語る、映画本大賞2017第4位の書籍『ジャック・ドゥミ+ミシェル・ルグラン シネマ・アンシャンテ』のこと:前編

早い段階で仕上がった山田宏一さんのパート

同時に制作された濱田さんの単著『ミシェル・ルグラン クロニクル』は、ルグラン本人公認の、全作品を網羅した評伝+ディスクガイドの決定版

ーーー山田さんとの共同作業で、特に印象的だったことを教えていただけますか?

濱田 企画が通り、スケジュールを組んでほどなくして、山田さんから原稿の第一稿が届きました。予定よりずいぶん早かったですね。ところが、こちらは、はやる気持ちとは裏腹に、なかなか執筆作業に取りかかれなかったんです。その時期、並行して取り組んでいた複数の本(そのうちの一冊は本書と同時期に刊行を目指していた『ミシェル・ルグラン クロニクル』)の編集作業もあって。それに、掲載するアイテムのセレクトにも時間がかかりました。実は本書に掲載したのはコレクションのほんの一部で、撮影したものの、ページの関係で割愛したものが多数あります。
 完全に出遅れた感じでした。そのため山田さんはもちろんのこと、編集を手がけてくれた吉田宏子さんと版元担当の山口一光さん、それにデザイナーの福田真一さんにはご迷惑をおかけしました。カメラマンの坂上俊彦さんには、倉庫から資料を発見するたびに、我が家まで機材を持ち込んで撮影していただいたり。
 その間にも、山田さんからは次々と改訂稿が届いて、山田さんのパートは早い段階で仕上がりました。ほんとにあっという間に原稿が揃ったんです。さすがだなと思ったのが、山田さんの写真の入る位置やトリミングへのこだわりです。その指示の手際の良さに感嘆しました。また、入稿直前で諸般の事情から、いくつかの写真が使用不可になり、数ページが空いてしまったんですが、それをお伝えした時も、その場で即座に「では、空いたスペースの字数に合わせて加筆しましょう」とおっしゃって、すぐに追加原稿が届きました。その時点で山田さんのパートは完成していましたから、傍目には、抜き差しできる状態じゃなかったんですね。それなのに、あっという間に加筆して下さって。あれには驚きました。 
 打ち合わせ中の様子ですか? 思い返せば、40分打ち合わせて、あと2時間は雑談みたいな印象ですね。山田さん、意外にもワイドショーやバラエティ番組などもご覧になられていて、打ち合わせ当日に起こった時事ネタを盛り込みながらの雑談でした。話はどんどん脱線するんだけど、最後はきれいにオチまでついて、そこで「じゃ、今日はこのあたりで」という感じです。もちろん、古今東西の映画作品にまつわる逸話もたくさん伺いました。そんな状態でしたから、本の作業期間はとても贅沢な時間を過ごせた気がしますね。

全く妥協が見えない作品『シェルブールの雨傘』

『ロシュフォールの恋人たち』の双子姉妹は、さまざまな雑誌のカヴァーを飾った

ーーータイトルにもなっている「シネマ・アンシャンテ」というのは、どういった意味なのでしょう?

濱田 これについては、本書のまえがきで山田宏一さんが書かれていますが、端的に言えば、ジャック・ドゥミとミシェル・ルグランの二人が自分たちの映画を指して作った造語で、「cinéma」(映画)と「chanter」(歌う)をかけ「映像と音楽の分かち難い関係」を表したものです。
 ご存知の通り、彼らのコラボレーション作品の大半が、ミュージカル映画で、なかでも『シェルブールの雨傘』(63年)『ロシュフォールの恋人たち』(66年)、『ロバと王女』(70年)、『パーキング』(85年)『想い出のマルセイユ』(88年)の5作品は、劇中で歌が重要な役割を担っています。
 
ーーー濱田さんにとって、ミシェル・ルグランが一番ハマっているジャック・ドゥミ作品はどれですか?
 
濱田 やはり『シェルブールの雨傘』ですね。あれこそまさに「歌う映画」ですから。とはいえ、最も多く観たこのコンビの作品は『ロシュフォールの恋人たち』で、すでに400回以上観ています。国内外の劇場で通算50回は足を運びましたし、あとはビデオ、LD、DVD、ブルーレイ……という具合に各種ソフトが発売されるたびに買い換えては繰り返し観ているので、冒頭から最後まで実尺通りに脳内再生できますよ。ただ、一番好きなのは『ローラ』で、あの映画のなかに、このコンビの全てが詰まっていると言っていい。未見の方にはぜひご覧いただきたいです。
 で、『シェルブールの雨傘』に話を戻すと、これは本にも書いたことですが、様々な困難を克服して執念で実現させた作品、全く妥協が見えない作品です。俳優陣を吹き替えにしてまで完璧な歌唱で歌を聴かせた点をはじめ、衣装やセット、俳優のちょっとした仕草まで、すべてジャック・ドゥミの美学に基づいて作られています。細かなところまで目が行き届いているんです。無論、ミシェルが手がけた音楽も。半世紀以上前にあれを実現させたんですから、ただただ脱帽です。鮮やかな色彩と見事な構図、そして劇的な音楽と可憐で繊細な芝居。悲恋の物語であると同時に反戦映画でもあり、作品に込められた想いの深さに胸が締め付けられること必至です。未見の方はぜひご覧ください。

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