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投資家目線で起業した後に生まれた「自分がやる」使命感――水野司(事業経営/幼児教育・訪問看護)

投資家目線で起業した後に生まれた「自分がやる」使命感――水野司(事業経営/幼児教育・訪問看護)

大手信託銀行のファンドマネージャーとしてトップの運用成績を収めながら、銀行を退職し、幼児教室や訪問看護という未知の分野で起業された水野司さん。第2回目となる今回は、銀行員の経験しかなかった水野さんが起業したことによって起きた変化について伺いました。

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プロフィール

水野 司(みずの つかさ)

国内大手信託銀行のファンドマネージャーとして顕著な運用成績を収めながら、銀行を退職。その後、2016年8月に株式会社えんパートナーズを設立。幼児教育や訪問看護など未経験の分野で複数の事業を同時に起ち上げる。

「人の成長に興味がなかった」過去からの変化

-銀行員から経営者に転身されて、想像とのギャップはありましたか?

今から考えると、複数の事業をほぼ同時にはじめたのは、やはり無茶だったかもしれません(笑)。というのも、起業してみて気づいたんですが、事業によって集まるスタッフの方々のキャラクターが異なり、経営者として求められるポイントも違うんですよね。

たとえば幼児教室では子育て中の女性スタッフが多く、教室に通う子どもたちに対応するときにも、「ママならではの視点」があります。ですから、彼女たちと接するうえでは、私から主体的に指示をするのではなく、まずはしっかりと話を受け止めて、必要な範囲でこちらの意見を伝えるようにしています。

一方、訪問看護のスタッフは看護師や作業療法士など、プロ意識の強い方ばかり。私は医療に関してはまったくの素人ですから、スタッフの皆さんへのリスペクトは常にもって接しています。いずれにしても、私はどちらの事業についても、スタッフとのコミュニケーションは密にとり、彼らがどういった価値観をもっているのかを把握するよう努めています。

銀行員時代にも、ファンドマネージャーとして部下を抱えてはいましたが、当時と今では状況は異なります。当時は私も含め皆が大企業のサラリーマンですから、ある意味予定調和。こちらから積極的にコミュニケーションを取らなくても、仕事は回っていきますし、たとえ、「こうした方がいい」と思っても、「だったらお前がやれ」と言われたくないですし、あえて発言しないという空気がありますから、あまり波風も立ちません。

でも今は、スタッフも「自分が動かないと」という感覚があり、皆が積極的です。業務に対して、「こうした方がいいのではないか」という意見がどんどん出てきていて、私も経営者としてコミュニケーションの重要性は強く感じますね

そういえば、銀行を辞めたあと、個人的にコーチングを受ける機会があったんですが、そのワークとして、「知人に、自分の長所と短所を聞いてみる」というものがあったんです。そこで、銀行員時代の部下に聞いてみたところ、長所として「自分に厳しい」という意見があった一方、「他人の成長に興味がない点が短所」だと言われました。振り返ってみると、たしかにそうだったな、と(笑)。でも、会社を起業してからは逆の声もあるんですよね。実際、今は自分のことよりも、事業のことや働いてくれているスタッフの方々に気持ちが向いていると感じます。

幼児教室と訪問看護、2つの事業に感じる可能性

-現在行なわれている、幼児教室と訪問看護の事業内容について教えてください。

まず幼児教室についてですが、1時間単位で枠を設け、パズルで遊んだりしながら、数やカタチの認識を育てるなど、いわゆる知育に関する授業をしています。授業の内容はフランチャイズで購入したメソッドを使っているため、きちんとしたエビデンスに基づいたカリキュラムです。

私自身、小学生低学年の息子と、幼稚園の娘がいますが、小さな頃の教育は非常に大切だと感じています。可能性そのものは誰しも持っているものですが、親が意識して育ててあげないと、その可能性を潰してしまうということもありますからね。

現在、私の教室で受け入れているのは、幼稚園から小学校低学年までのお子様です。一応、私は校長先生という扱いになっていて、子どもたちと接する機会もあるんですが、「可愛いな」と単純に思いますね。起業して良かったな、と思う瞬間のひとつです

次に、訪問看護については、そもそも事業化を決めたのは、今後の日本社会を考えると、在宅医療のニーズは必ず高まっていくと判断したからです。国としても財政難のなか、医療費を抑制する方向で動いていますから、病院としては早めに退院させなくてはならない。そうすると、病気や怪我を抱えながら自宅で過ごさざるを得ない人たちも出てくるわけです。しかも、高齢になると、なかなか病院に通院するのも難しいですよね。そこで、自宅に伺ってケアをする訪問看護が必要になるんです。

弊社では、「ざいたくサポート木場」という事業所を設け、看護師や理学療法士、作業療法士の方々をスタッフとして、9名体制で事業をしています。主治医からの指示書を受けて、看護師などがご利用者様の自宅に訪問し、たとえば、糖尿病の疾患を持つ方にインシュリン注射をしたり、脳梗塞などで寝たきりになった方にリハビリのお手伝いをしたりといった定期的なサポートを行っています。

-水野さんのようにまったく経験のないなか、訪問看護に参入する方は珍しいのではないでしょうか?

そうですね。まわりを見ていると、もともとは建築関係など別の事業をしていたところが、新たなビジネスとして参入するケースか、病院に勤務されていた看護師さんなどが在宅看護に参入するケースの2つに分かれているように感じます。

ただ、後者の場合は、資金繰りの関係から、1年ほどで事業から撤退されているのが実情です。というのも、訪問看護は、開業当初に多大なコストを必要とするため、事業をスタートして黒字化する前に、資金が底をつくということが少なからずあるんです

そもそも、訪問看護を事業としてはじめるためには、あらかじめ看護師さんの人数などの形を整え、都道府県知事から認可を受ける必要があります。申請から、認可を受けて事業をはじめるまで約2ヶ月かかりますが、その間は収入がゼロにもかかわらず、スタッフの人件費はかかってしまいますから。ここで生じた赤字を取り戻すだけでも大変です。

起業した後に生まれた、「この事業を続けるべき」という使命感

-参入障壁の高い訪問看護に水野さんが参入し、事業を続けられているのはなぜですか?

まずは、幼児教室の黒字で訪問看護のコストの一部をカバーしています。ただ、それだけではまだカバーしきれません。そこで、さらに個人的に自己資金を投資して、ここから生じた運用益も収入源としています。もともと、銀行員時代は社内ルールによって個人的に投資をすることができなかったので、退職したらやってみたいという思いがあったんですが、今はかなり本格的に投資をしています。私がいちどに複数の事業で起業できたのも、訪問看護事業を何とか継続できているのも、銀行員時代に培った投資のスキルによるところは大きいです。

-起業されて、生活はどう変わりましたか?

時間の使い方はまったく変わりましたね。銀行員時代は、朝6時には出社してマーケット情報をチェックして、夜遅くまでパソコンに向かっていましたが、今は子どもの幼稚園の送迎もできるようになりましたから。子どもが急に熱を出したりしても、仕事をやりくりして対応できるのは助かります。

とはいえ、下の子もじきに小学校に入り、だんだんと手も離れていくでしょうから、そうなれば、もっと事業を良くするよう、時間をかけて取り組んでいこうと思っています。訪問看護も、色んなところに拠点があったほうがご利用者様へ対応しやすくなりますから、事務所やスタッフを増やして事業を拡大していきたいですね。

-もともとは「事業性のある分野」を狙って起業されたとのことですが、実際に事業を続けられて、気持ちの変化はありましたか?

はい。実際に訪問看護に関わるようになって知ったのは、訪問看護には、病院とは違った役割がある、ということです。病院は、病気や怪我を治す場所ですよね。いわゆる「キュア」の領域なんです。一方、在宅看護の場合、お世話をする、つまり「ケア」。たとえば、ガンの末期症状の方など、治る見込みのない方であっても、在宅看護を利用されていて、私たちは、いかに自宅での生活を有意義に、“納得して”過ごしてもらえるか、という点に気を配っています。なかには、最期までお世話をさせていただくご利用者様もいて、スタッフも、そうした仕事に携われることにやりがいを感じているようです。

幼児教室にせよ、訪問看護にせよ、こうした現場の話をスタッフから毎日聞いているため、今ではこれらの仕事に、大きな意義を感じています。もともと、私は投資と同じ目線で起業したため、起業後しばらく赤字が続く状況を見て、「投資判断的には撤退すべき」と頭によぎることもありました。でも、今ではスタッフの熱意や、ご利用者様からいただく感謝の言葉などに触れ、「何とか続けていこう」という決意です

前編はこちら 文・小林義崇 写真・小出和弘

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