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WEB漫画ヒットの秘密と出版不況の内実を赤裸々に暴露!?

WEB漫画ヒットの秘密と出版不況の内実を赤裸々に暴露!?

「30代以上の人にとって『週刊少年ジャンプをいち早く読む』ことがひとつのステイタスだった時代があったのではないだろうか」という書き出しから始まる本書『少年ジャンプが1000円になる日~出版不況とWeb漫画の台頭~』。少年ではなく少女だった私は『週刊少年ジャンプ』は読んでいませんでしたが、その感覚はとてもよくわかります。小学生のころの私は毎月『りぼん』や『なかよし』の発売日ともなると、ランドセルを家に置く間も惜しいほど急いで最新号を買いに行き、連載漫画の続きを読むのが何よりの楽しみだったから。

 けれど、出版不況と言われてひさしい現在。漫画雑誌の売れ行きも下降の一途で、コミックス市場も過去最大の落ち込みを見せています。

 そのいっぽうで台頭してきたのがWEB漫画。紙の漫画ではありえない形の作品やヒットが生まれ、紙とはまったくちがう形で利益が生み出されているといいます。

 驚くことに、紙媒体に電子書籍の売上げを足した場合、前年比4.8%増の3407億円となり、過去最高の市場規模となるのだそうです。つまり、漫画雑誌やコミックスの売上げが減少していると聞くと漫画を読む人口が少なくなったように感じられますが、そうではなく、メディアが変わっただけで漫画業界事態はまだまだアツいという考え方ができるわけです。

 そこで疑問を持つのが、なぜこんなにWEB漫画がヒットしているのかということ。本書では、その秘密を明かすとともに出版不況の内実についても暴露。紙とWEBの狭間に揺れる出版業界を、著者の大坪ケムタ氏が漫画関係者への取材によって解き明かしています。

 本書は紙の漫画からWEB漫画へと移り変わる過程を時系列的に把握することができる資料的な一冊でもありますが、キーマンへの取材がおこなわれていることでよりルポ的な側面も持っています。

 たとえば、手塚治虫さんをはじめとする著名な漫画家のパロディ作品を執筆している田中圭一さん。最近では漫画『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』でも知られていますが、33万部というヒット作の誕生にはツイッターが大きくかかわっていたといいます。

「こういう作品を描きたい、とツイッターに投稿したら、30分も経たないうちに『文芸KADOKAWA』の編集者から連絡があったんです」(本書より)とのこと。そして掲載の形式も、WEB文芸誌『文芸KADOKAWA』と、1話ごとに販売する投稿サイト『note』の並行連載という形だったそう。今のネット社会ならではといえるリアリティのあるエピソードではないでしょうか。

 いっぽうで、WEB漫画の盛り上がりをもはや無視できないようになった出版社も積極的にWEB漫画サイトに参入するように。『キン肉マンⅡ世』の連載がWEBサイト「週プレNEWS」に移ったり、「となりのヤングジャンプ」で『ワンパンマン』が異例の人気を博したり、そしてついに少年ジャンプが電子書籍で買える時代になったり。

 2016年、コミックス市場は紙2963億円に比べ、電子は1491億円だったそう。関係者からは「近ければ2、3年のうちに電子と紙の比率は入れ替わるだろうね」との感想がため息混じりに聞かれるといいます。そんな未来が訪れれば、「いつか少年ジャンプをはじめとした週刊漫画誌が500円、600円と値上がりしていき、1000円になる日は本当にくるのだろうか」(本書より)と本書のタイトルにも通じる疑問を投げかける著者の大坪さん。

 けれど、けっして本書は否定的な終わり方ではありません。紙の漫画とWEBの漫画が共存し、なおかつ史上最高の漫画黄金期の到来を期待できるような結びにしているのが漫画を愛してやまない大坪さんらしいところ。これからの漫画業界をどんなふうに考えるのか……ぜひ皆さんも本書を読んで予見してみてください。

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