“ここまでやっていた”JALの地上職の仕事 ――「グランドスタッフ」という知られざる超専門職

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“ここまでやっていた”JALの地上職の仕事 ――「グランドスタッフ」という知られざる超専門職

航空業界といえば、今も昔も変わらぬ就職の人気業界。中でも人気1、2位を争っているのが、JALだ。2010年に経営破綻したJALだが、今や見事に復活している。業績はもちろん、サービスのランキングでも好調だ。

エアラインといえばCA(客室乗務員)を思い浮かべる人も多いが、地上職員=グランドスタッフに焦点を当て、JALに幅広く取材して著書『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』(河出書房新社)を書き上げた上阪徹氏が、エアライン人気の背景から、JAL再生の裏側、さらには知られざるエアラインの仕事や好印象を作るサービススキルまで、全5回で迫る。

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プロフィール

ブックライター 上阪徹さん

1966年生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリー。これまでの取材人数は3000人超。著書に『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1大学になったのか?』『社長の「まわり」の仕事術』『10倍速く書ける 超スピード文章術』『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』『成功者3000人の言葉』『リブセンス』『職業、ブックライター。』など。

決して簡単な仕事ではないグランドスタッフ

エアラインのサービスというと、真っ先に機内でのサービスを担当する客室乗務員(CA/キャビンアテンダント)を思い浮かべるという人も少なくないかもしれない。実際、サービスについての本を出していたり、サービスのコンサルティングを行っているエアラインの客室乗務員OBもいたりする。

もちろん、客室乗務員のサービスは素晴らしいと思うのだが、一方で「グランドスタッフ」と呼ばれる地上職員も、とても感じがいいのになぁ、と私は思っていた。実はそんなふうに思っている人も少なくないのではないだろうか。だが、グランドスタッフについて記した書籍はほとんどなかった。

その背景を探るべく、多くのグランドスタッフに取材して書き上げたのが、拙著『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』(河出書房新社)だった。グランドスタッフのサービスについて、そのスキルについて、徹底取材させてもらった。

グランドスタッフの仕事は多岐にわたっている。チェックインをするスタッフ、荷物を預かるスタッフ、搭乗ゲートでお迎えし、アナウンスをしたり、機内へと案内するスタッフ。さらにラウンジを担当するスタッフや、現場には出ずバックオフィスでさまざまな情報をコントロールし、いろいろな指示を出しているスタッフもいる。多くのケースで、ローテーションでいろいろな仕事をしていくのだという。

まず取材でわかったのは、グランドスタッフという仕事が、実は決して簡単な仕事ではない、ということだった。

一瞬にして印象が決まり、挽回する時間はない

例えば、チェックインカウンターにしても、搭乗ゲートにしても、接客やおもてなしができる時間は極めて短い。それこそ、一瞬にして印象は決まってしまう。最初に良くないイメージがついてしまうと、挽回する時間はほとんどないのだ。

CAであれば、フライトはそれなりに長い時間がある。何度か、機内でサービスをしたり、コミュニケーションを取る機会がある。しかし、グランドスタッフは場合によっては、わずか数十秒でサービスをしないといけないのだ。そこで「いいサービスをしてもらえた」「好印象だった」と思ってもらうのが、いかに至難の業か。

また、当然のことだが、空港に関する知識、飛行機に関する知識、乗り継ぎ先の便や空港情報等について、正確な知識を持っていなければいけない。もしくは、そうしたことを瞬時に調べることができる対応力が求められる。

世界のどこから来たのか、どこに飛び立っていくのか、どんなふうに乗り継いでいくのか、乗客を目の前にするまでわからないのに、である。

しかも、乗客のリクエストにすべて応じられるわけではない。例えば、席の指定にしても、希望の席がすでに埋まってしまっている可能性がある。そうなれば、希望に応じられない。

また、国内線の場合は、チェックイン機でチェックインを済ませてしまい、そのまま保安検査場へ向かう人も多い。そうなると、カウンターでチェックインをする人は、何か要望がある人、というケースが少なくないはず。

場合によっては、何か困ったことになっている、といったことも考えられる。しかも、目の前でどんな話がやってくるのか、聞くまで想像もできない。その場で迅速に、さらには正確に対応しないといけないのだ。

スピーディーに、正確に、しかも、笑顔で、乗客に寄り添う。この難しい仕事に挑んでいるのが、グランドスタッフなのである。

乗客の目的ごとに、接客の対応を変えている

実際に、福岡空港でカウンターでの接客場面を見せてもらった。自動チェックイン機もあるのだが、意外にもカウンターには列ができている。列の先頭で空いたカウンターに入ると、グランドスタッフが笑顔で迎える。実際のやりとりまでは耳にすることはできなかったが、後で聞いてみると「羽田空港で早く降りられる座席を」というのがリクエストだった。

前方の通路側が空いていたので、できるだけ出口に近いシートを選択した、とのこと。これがあっという間。これなら、チェックイン機を自分で操作するよりも早い、と感じた。

次にやってきたのは、大きなスーツケースを持った女性2人。どうやら旅行のようだ。これも後で聞くと、国内旅行ではなく、成田空港で乗り換えてカナダに出発する、ということだった。国内線のカウンターでもこういうことはある。

搭乗券を受け取り、手元の端末でテキパキ入力していくが、時折、乗客のほうを向いて笑顔が出る。端末に向きっぱなしにならないのだ。ときどき笑顔でアイコンタクトしていく。

搭乗券を渡した後も、少し話をしている。しばらくして「ご旅行、楽しんできてくだい」と笑顔で送り出した。少し急いでいる雰囲気のあった、先のビジネスマンへの対応と違う。乗客の目的ごとに、接客の対応を変えているのだ。

乗り遅れを早めに察知して、対応を急ぐ

羽田空港では、搭乗ゲートの仕事を見せてもらった。アナウンス、ゲート前での搭乗対応、客室乗務員への申し送りなど、仕事はさまざま。便やゲートによって人数が異なり、役割を分担して案内業務を進めていく。

搭乗時刻前でも、例えばサポートが必要な乗客がいればチェックインカウンターやバックオフィスから情報が届く。そうすると、ゲートでその乗客を探す。連携がなくとも、サポートが必要な乗客がいないかどうかを確認しているという。

ちょうど金曜だったが、最初に見たのは羽田から伊丹に向かう便。特徴はビジネス利用の多さだ。出張帰りなのか、早く帰りたい、という空気が強く流れていた。

実際、この時刻の伊丹便はとにかく時間が重視される。旅慣れた乗客が多く、丁寧なサービスはもちろん、それ以上にスピードが求められる。優先搭乗のアナウンスが流れると、どっと乗客が席を立った。優先搭乗のステータスを持った乗客が多いのだ。だから、サポートが必要な人を、事前改札の段階で案内できるよう、声をかけていたと合点がいった。

搭乗時刻になると続々とゲートを通り抜けていく。ところが、出発時刻が近づくのに、全員が機内に入っていない。定時に飛行機を出発させるには、ドアは出発の3分前に閉める必要がある。

ここからが、搭乗ゲート担当の真骨頂となる。チェックインしていて、まだ機内に入っていない乗客の情報はバックオフィスも把握している。ここと連携して、チェックイン時間は何時だったか、ステータス保有者など旅慣れた人か、類推するのだ。

旅慣れていなければ、空港内で迷ったりしていることもある。これを早めに察知して、対応を急ぐのである。そうでないと、出発時刻が遅れかねないからだ。

サービスには、たくさんの正解がある

全員の搭乗ゲート通過が確認できると、グランドスタッフの一人が書類を手に搭乗橋から飛行機に向かう。客室乗務員と、搭乗客の人数の読み合わせや引き継ぎ事項の確認をし終えると、目の前でドアが閉まる。グランドスタッフは再びゲートに戻り、全員で飛行機に向けて深々とお辞儀をする。

実はこのとき、真正面に操縦席が見えるのだが、パイロットが手を振っていた。これは、いつもの光景だという。チェックインからバックオフィス、搭乗ゲート、客室乗務員、そしてパイロットまで、全部つながっている。いろいろな役割のスタッフが、「バトンタッチ」でつないているのである。

伊丹便を見送った後、次は羽田から福岡に向かう便のゲートに行った。驚いたのは、雰囲気がまるで違ったことである。ビジネス客は半分、残りや旅行や帰省の家族連れ、といった感じ。

となれば、搭乗ゲートのグランドスタッフの対応はまた違う。スピード重視でテキパキ、というよりも、少しゆったりした対応なのだ。

どの便も同じ対応をすればいい、というわけでない。乗客が求めるニーズによって的確な対応は変わる。サービスも変えなければいけない。サービスには、たくさんの正解があるのだ。それを瞬時に判断し、乗客一人ひとりに合った接客、記憶に残るサービスができなければ、「サービスがいい」とは思ってもらえないのである。

チェックインカウンターで不安そうにしていると判断したら、「何かお困りのことはございませんか」と声をかけることもあるという。そうすると、一人で飛行機に乗るのは実は初めてだった、などという声が聞こえてくる。

こうした話は、きちんと搭乗ゲートへ、さらには客室乗務員へと申し送りされる。そして機内では、客室乗務員から「ご安心ください」と心づかいを受けられる。何も言っていないのに、である。こうしたサービスが、高い評価を作っているのだ。

だが、実はグランドスタッフには、サービスマニュアルはない。どのようにして、このサービスを生み出しているのか、次回第4回でご紹介する。

参考図書

『JALの心づかい グランドスタッフが実践する究極のサービス』

著者:上阪徹

出版社:河出書房新社

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