「好きなもの」を追い求めて、気が付いたらここにいた――ゲームプロデューサー広野啓の仕事論

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「好きなもの」を追い求めて、気が付いたらここにいた――ゲームプロデューサー広野啓の仕事論

株式会社スクウェア・エニックスといえば、日本を代表するゲーム会社。企業理念に「お客様自身に素晴らしい物語、すなわち思い出を作っていただくこと」とありますが、子供時代にゲームに熱中した頃を懐かしく思い出す方も多いでしょう。特に『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』などは、普段ゲームをしない人でもそのキャラクターや音楽を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。そんな国民的ゲームともいえる大ヒットを生み出したスクウェア・エニックスにおいて、現在『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』(以下、『FFBE』)のゲームプロデューサーとして活躍している広野啓さんに「プロデューサー」として仕事をするうえでの「好きなことを仕事にすること」と「マネジメントの心構え」についてお話をお伺いしました。

プロフィール

広野 啓(ひろの けい)

2013年に株式会社スクウェア・エニックスに入社。入社後、ゲームの映像化タイトル『実在性ミリオンアーサー』やサガ シリーズ初のPCブラウザゲーム『インペリアル サガ』のプロデュースを手掛ける。2015年に『FFBE』をスタート。2016年には全世界向けに『FFBE』のグローバル版の配信を開始。現在までに全世界3000万ダウンロードを記録。作品のプロデュース業務と共に、第8BDのディビジョン・エグゼクティブを務める。

「好きなこと」を仕事にすることの現実と葛藤は?

――ゲームプロデューサーとは、具体的にはどのような仕事をしているのですか?やはり子供のころからゲームが好きでしたか?

広野:主な業務は、ゲームプロデュース、といってもわかりづらいかもしれませんがゲーム制作における企画・開発・スケジュールと予算管理そしてプロモーション(つまりすべて)です。そのための制作メンバーの編成を始めとしたマネジメント全般ですね。1つのゲームを作るのに社内のメンバーと、さらに外部の開発会社の方や、場合によっては海外の開発チームも加わります。ゲームのタイトルごとにチームがあり、同時に複数のチームを見ています。また、手がけたゲームのプロモーションや告知などもダイレクトにお客様に届けることも求められているので社外へ出ることも多いです。

ゲームはもちろん子供のころから好きで、就職活動を始める際には真っ先に思い浮かべたのがこの業界でした。でもゲームだけでなく、アニメや漫画も好きで、今でも漫画週刊誌は毎日欠かさずに読んでいます。エンターテインメント全般が好きな気持ちはずっと持ち続けています。「こだわっている」というよりは、好きなものを追い求めて、気が付いたらここにいた、という感じですね。

――「好きなことを仕事にしている」からこそ、ご自身が共感できないものを担当することになった際には葛藤があるのではないでしょうか。

広野:人間ですから当然、好みとそうでないものはあります。でも「絶対にNG」というものは、自分の中ではないんです。なんでもまず受け止めてみることにしています。むしろ「何かしらを得てやろう」という気持ちをもって挑みます。それでもやはり「合わなかった」という結論に至ることもありますが、それがわかったこと自体が「自分の経験にできた」という貴重な価値だと思っています。

――ゲームプロデューサーにとって一番大切なことは、何ですか?

広野:担当した作品への「熱量」ですね。ゲーム制作においてはプロデューサーが、作品に対して一番「熱」を持っていないといけないと思っているんです。ゲームは完成までに、制作の過程で多くの方の手を媒介します。熱量が少ないとどうしても、ユーザーにまで伝わっていかないと思うんです。それから、私は「自分のことを自分が一番好き」です。こんなことを言うと誤解を生んでしまうかもしれないんですが・・・。ただありのままが好きというのではなく、好きな自分でいるための努力は惜しまず、妥協しません。その点はぶれないので、客観的で冷徹だといわれることもありますが、作品への熱量を最大限に保つこと、そして自分自身が自分を信じること、好きであることがとても大切だと思っています。

「プロダクト」を介してメンバーと話をする、すると自ずとゴールが見えてくる

――ゲーム業界というと多彩なクリエイターが、こだわりをもってお仕事をされている印象があります。社内のみならず、社外・海外の方々との調整は、働き方や、立場、役割も様々でマネジメントが大変そうですが、いかがでしょうか。

広野:そうですね。メンバーとのコミュニケーションの時間を作ることは最も大切にしています。特に社内で決められているわけではないんですが、直属で見ているリーダー陣だけではなく、そのチーム内のメンバーも必ず一度は自分のメンバーとしてマネジメントをしています。そこでメンバーの「やりたいこと」と「モチベーション」を理解したうえで、リーダーと一緒にマネジメントを行います。そして、ある程度関係性が構築できたタイミングでリーダーにバトンタッチして任せるようにしています。それから雇用形態などによって目標の設定の仕方に加減はしていません。逆にそこはあまり意識しないよう、各個人が能力を発揮できる環境を作ることに従事します。本人から申し出があれば考慮はしますけどね。

クリエイターのマネジメントですが、私たちの仕事は必ず「プロダクト」(もの)があるので、プロダクトベースの会話ができることが強みだと思っています。想像される通りこだわりの強いメンバーがいて、それが作品の強みや熱量にもつながっていくのですが、プロダクトの世界観や価値観を基に対話を進めることができるんです。そうすることで、おのずとゴールが見えてきたり、プロダクトを介した会話を繰り返すことで、同じ価値観を共有することができて、次から仕事が早く進むんですよね。

――では、メンバーや同業界の方とは、やはり仕事帰りやプライベートでも一緒に食事に行ったり、よく飲んだり、遊んだりするのですか?

広野:いえ、実は私はお酒をほとんど飲まないので、仕事が終わったらなるべく早く自宅に帰ります。会社の同僚や、メンバーとなんとなく「飲んで帰ろうか」というのは、ほとんどないんですよね。食事に一緒に行くのは、取引先がほとんどで、まったく違う業界の友人も多いです。結婚して子供ができてからは、さらに早く家に帰って家族と過ごしたいという気持ちが強いですね。会社のメンバーとは、取引先との会食に同席させたりすることでそのタイミングで話をするのと、業務時間内にきちんと時間を取って話をするようにしています。それから、よくお酒を飲んで腹を割って…という人もいますが、私自身はお酒を飲めないこともあるのですが、普段からメンバーや誰に対しても「腹を割って」話しているせいか、「飲んで話しませんか」と誘われることもあまりないですね。

――プライベートの広野さんの顔はどんな顔ですか?オフの日は何をして過ごしていますか?

広野:そうですね、週末は子供の習い事の送迎や、妻と買い物に出かけたりが多いですね。先週末は、子供を預けて、妻と一緒に映画を見に行ってきました。普通のパパの顔をしていると思います。娘と一緒にゲームもするんですが、娘の言うとおりにゲームを進めるので、まったくクリアできなかったりします。それでも、娘が楽しんでくれればいいんです。もちろんクリアもしたいので、子供が寝静まった後にゲームを最後までプレイしています(笑)

――今後はどのようなゲームを作っていきたいと考えていますか?

広野:自分自身が親になったからというのも関係しているかもしれないんですが、教育系のゲームを作ってみたい気持ちが出てきました。自分自身の経験からもそうなんですが、子供のころに遊んだゲームのキャラクターの名前やなんかは今でも鮮明に覚えていますよね。でも学校で勉強して覚えたことって、まったく記憶に残っていなかったり。だから、ゲームを通じて子供たちの記憶に残るような工夫がされたエンタメ系の学習ゲームを作ってみたいなと思っています。

文・藤田 彩

早稲田大学卒業。(株)リクルートキャリアをはじめ人材・教育業界を経て上海へ留学。帰国後は外資系企業における採用や、留学生の就職活動をサポートする。出産・育児のため退職し、起業。現在、採用コンサルティング・日本語教師・ライターとして幅広く業務を行う。

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