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「この音楽が鳴ったら世の中はどう変わるんだろうということを考えています」――いしわたり淳治インタビュー(前編)

「この音楽が鳴ったら世の中はどう変わるんだろうということを考えています」――いしわたり淳治インタビュー(前編)

一緒に飲んでいる女性をお持ち帰りすべく、必死に誘う男性。しかし、「私、顔色を読むことができるんだ」と言うその女性は、気のない返事をしてばかり。

もう終電も終わり、いよいよというときに女性は「友達の家に行くね」と言って去っていってしまう。一体なぜ女性は男性の誘いを断ったのだろうか。「そいつの家に泊まりに行けばよかったじゃん」と言う友達に、その女性は衝撃の理由を告げる。

「そいつさぁ、会ったときからずっと、顔に――」

シンプルだけれども大胆。最後まで予測がつかない。油断をしていると思わぬところで面を食らう。ブラックユーモアで包み込まれたストーリーは、どこか教訓めいていて、それでいて爽快でもある。この本がベストセラーになっているのも頷ける。

日本のロックが好きな人ならば、「いしわたり淳治」を知らない人はほとんどいないだろう。青森県出身。1995年にスーパーカーを結成し、1997年にメジャーデビュー。バンドではギターと作詞を担当し、当時から一線を画す才能を見せていた。2005年にバンドが解散すると、作詞家・サウンドプロデューサーに転身。チャットモンチー、9mm Parabellum Bulletm、ねごとをはじめ、ジャンルを問わず幅広いミュージシャンを手掛けている。

そんないしわたりさんが執筆した2冊の本――『うれしい悲鳴をあげてくれ』『次の突き当たりをまっすぐ』(ともに筑摩書房刊)は、タイトルからうかがえるように“ひねくれていて”“痛快な”ショートショートが収められた短編集である。

冒頭に取り上げた物語は、20万部を突破している『うれしい悲鳴をあげてくれ』のオープニングを飾る「顔色」という作品のあらすじだ。本作のオーディオブック版ではロックバンド「チャットモンチー」の橋本絵莉子さんが朗読していることでも話題だ。

音楽でも言葉でも、私たちを魅了し続けるいしわたりさん。この人は一体普段、どんな目線で物事を見ているんだろう――。スーパーカーがかき鳴らす音楽を浴びて思春期を送った私、新刊JP編集部の金井は、その目の奥に映っている景色について探ってみることにした。

取材、構成、写真:金井元貴(新刊JP編集部)

■「全てのアイデアが5分の尺で生まれるんです」

――まずは『うれしい悲鳴をあげてくれ』からお話をうかがいます。本作はもともと10年前に出版された本で、執筆当時、いしわたりさんは20代。その頃の文章が文庫版になりベストセラーとなっている心境はいかがですか?

いしわたり:単純に恥ずかしいですよ(笑)。これはショートショートだけじゃなくて、エッセイも収録されていますけれど、特にエッセイの方が恥ずかしい。

最初に書いたエッセイが2003年かな。エッセイってタイム感が大事じゃないですか。スマホもなかった時代だし、最近自分を知った人が何も知らずに読んだら、「この人、ずいぶんアナログだなあ」と思うでしょうね。

――自分で書いた文章を読み返すことはあるんですか?

いしわたり:音楽もそうですが、あまり振り返らないですね。そういうポリシーとかではないんですけど、振り返るよりも明日のこと考えた方がいいですから。

――この本は、音楽雑誌『ロッキング・オン・ジャパン』の連載に書き下ろしを加えた一冊です。雑誌に掲載された日付を見ると2005年まではエッセイが中心、2006年以降にショートショートが出てきます。これは何か心境の変化があったのですか?

いしわたり:もともと連載のオファーを受けたときに、「エッセイを書いてほしいけれど、それがリアルである必要はない」という注文を受けまして。つまり、「7割くらい本当で、3割くらいは非現実のようなもの」を書いてほしいと。

だから、最初は戸惑いながらもエッセイを書いていたんですけど、書き始めて1、2年くらいしたところで、「それって小説のことなんじゃないの?」と気付いて、しれっとショートショートに変えてみたんです。

――当時の『ロッキング・オン・ジャパン』の編集部の反応は…。

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