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ボブ・シーガーの『奔馬の如く』は、アメリカンロックのお手本的な作品

1960年代から地元デトロイトで人気のあったボブ・シーガー。アメリカでは知らぬ者がいないほどのスター歌手であるのに、日本ではほとんど知られていないアーティストだ。今回紹介する『奔馬の如く(原題:Against The Wind)』は、全米1位を獲得した上にグラミー賞まで獲得した作品であるにもかかわらず、少しだけ注目されるだけで終わっている。
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なぜかと言うと、シーガーは不器用な男で、流行という存在に疎いのだ。テクノやニューウェイブの波が押し寄せた80年代初頭に、まるで70年代初頭のような王道のアメリカンロックで勝負したのである。当時は「古臭い!」と多くの日本人リスナーが無視したのだが、奇を衒わず、ど真中の豪速球で勝負したそのサウンドは今聴いても古くなっておらず、アメリカンロックの王道をいく傑作だった。
長い下積みの時代を経て

ボブ・シーガーがデビューしたのは1968年、なんと今から50年前のことである。アマチュアの頃からバンド活動し、パワフルさが持ち味で歌の上手い彼は地元のデトロイトではちょっとしたスターであった。“ボブ・シーガー・システム”というグループでメジャーレーベルと契約し、全米20入りするヒットを放ったこともあった。当時はメジャーレーベルの新人だったから、会社の言われるままにサイケデリックロック路線で売っていたが、シーガー自身はロックンロールやソウルで勝負したかったようだ。3歳年下のイーグルスのグレン・フライも同郷だったので、弟分として何かと面倒を見ていたらしく、その付き合いはフライが亡くなる2016年まで続いている。余談だが、イーグルス後期のヒット曲「Heartache Tonight」では、ソングライティングとバックヴォーカルをシーガーが担当している。

トップ20ヒットのあとまったく売れなくなり(地元デトロイトではもちろんスターであったが)、ソロに転向し5枚のアルバムをリリースするも満足のいくセールスとはならなかった。特にシーガーのバックバンドのメンバーであるジェイミー・オールデイカー、ディック・シムズ、マーシー・レヴィをエリック・クラプトンに引き抜かれてしまうという事件でシーガーは落ち込み、一時は音楽活動を止めていた時期もあった。そんな頃、シーガーはイギリスのソウルフルなヴォーカリストであるヴァン・モリソン(シーガーと似た部分が多い)を聴き衝撃を受け、新たなグループであるシルバー・バレット・バンドを結成する。
正統派アメリカンロックの シンガーとして再スタート

そして、ボブ・シーガー&ザ・シルバー・バレット・バンドとして、地元デトロイトでのライヴを収録した2枚組の『Live Bullet』(‘76)をリリースすると、デトロイトの多くのラジオ局でヘビーローテーションされる結果となり、そこから全米レベルでの大ヒットへとつながっていく。結局、このライヴ盤がトップ40に入りシーガーは再起、続く『Night Moves』(’76)は8位、『Stranger In Town』(‘78)は4位まで上昇、世界はパンク時代を迎えていたが、不器用なシーガーは70年代初期のアメリカンロックで勝負し、きっちり結果を出すのである。

この頃のシーガーの音楽は、ブルース・スプリングスティーンにも似ているしイーグルスっぽい部分もある。真似とかパクリとか言われることもあったが、彼のパワフルで煽るようなヴォーカルは誰よりもロックしていたし、それまでの下積みの経験が彼の音楽に深みを与えていた。特に、彼の書く曲は味わい深く、多くのアーティストたちにカバーされることも増え、それらの相乗効果でますます人気は高まっていったのである。
本作『奔馬の如く (原題:Against The Wind)』について

シルバー・バレット・バンド名義では4枚目、シーガーとして11枚目のスタジオアルバムとなる『奔馬の如く』を80年にリリースすると、それまで1位の座を長期間守っていたピンク・フロイドの『ザ・ウォール』に代わって、シーガーの新作が初の全米1位となった。長い間の苦労が報われたわけで、タイトルからして“Against The Wind = 風に立ち向かって”という、彼の立ち位置そのもののような作品になったのである。本作は全米チャートで1位になっただけでなく、翌年のグラミー賞では複数部門を獲得する快挙まで成し遂げているのだから大したものだ。

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