体験を伝える―『ガジェット通信』の考え方

面白いものを探しにいこう 本物を体験し体感しよう 会いたい人に会いに行こう 見たことのないものを見に行こう そしてそれをやわらかくみんなに伝えよう [→ガジェ通についてもっと詳しく] [→ガジェット通信フロアについて]

『ANTHEM〜パワーメタル戒厳令〜』は関東HR/HMをけん引し、日本において“NWOBHM”を提示したANTHEM、入魂の一作

1カ月にわたってお送りしてきた日本の1980年代HR/HMシリーズ。いつも以上に独断でお届けしてきたわけだが、今回で一旦、中締め。またいつか機会があれば、ニーズがなくとも再会するのでご容赦あれ。今回は関東シーンの雄、ANTHEMのデビュー作を紹介する。
これだけはおさえたい邦楽名盤列伝! (okmusic UP's)

関西に負けない革新性と独自性を貫き、のちの音楽シーンにも影響を与えたそのサウンドをスピリッツを分析してみよう。
神楽坂から生まれた関東HR/HM

日本においてHR/HMが定着した1980年代。その火付け役は間違いなく関西の音楽シーンであった。LOUDNESSの前身であるLAZYが大阪の出身であるし、先月の当コラムで紹介したEARTHSHAKER、44MAGNUM、NOVELAは全て関西のシーンから現れたバンドだ。メンバーも概ね大阪生まれだった。この辺はもともと関西のシーンを彩っていたブルースロックが下地となり、それが派生していったから…という見方もできるだろうし、関西(というか大阪)ならではの派手好きが転じたものだという人もいる。いずれにせよ、ある時まで日本のHR/HMは完全に西高東低だったと言えるが、当時とて関西以外のバンドたちも決して手をこまねいていたわけではない。東京のSABBRABELLS、札幌のFLATBACKER、名古屋のSNIPERといったバンドたちがそれぞれ独自のカラーを発揮し、自己主張を始めていた。
1984年にリリースされた、伝説のオムニバスアルバム『HEAVY METAL FORCE Vol.1』にその発露を垣間見ることができる。本作はライヴハウス、ロックハウスEXPLOSION(現:神楽坂 TRASH-UP!!)が自らのレーベルを立ち上げ、当時、東京で活動していたバンドたちの音源を集めた、言わば東京のHR/HMの威信を全国に問うた作品。東京・六本木のS-KENスタジオでギグを行なっていたバンドたちが結集した『東京ロッカーズ』というオムニバスライヴ盤が1979年に出ているが、ジャンルこそ異なるものの、『HEAVY METAL FORCE Vol.1』もそれと同様のスピリッツを持っていたのだろう。2000枚限定で、10ミリメートルを超える分厚い木製ボックス入り、ステッカーや缶バッジも特典に付いていたというから、当時のスタッフの並々ならぬ意気込みを感じられる作品だが、その音源のオープニングを飾っているのがANTHEMである。
関西と同時時期に関東を盛り上げる

ANTHEMは1981年、リーダーである柴田直人(Ba)が中心となって結成された。ファンならばよくご存知かと思うが、ANTHEMはメンバーチェンジの激しいバンドで、結成から2年後の1983年にギタリストが福田洋也(Gu)へと変わり、その翌年にはヴォーカリストが脱退。1985年に坂本英三(Vo)が加入し、同年、坂本、福田、柴田、そして大内“MAD”貴雅(Dr)という4人でメジャーデビューを果たしている。デビューがEARTHSHAKER、44MAGNUMより若干遅めで(ともに1983年デビュー)、この辺にも西高東低が関係しているのかと思ったら、どうもそういうことだけではないらしい。

1984年、EARTHSHAKER、44MAGNUM、そしてMARINOという関西HR/HM勢が新宿LOFTでライヴをやった、その名も“関西なぐり込みギグ”なるイベントがあった。ANTHEMはそこに参加し、その共演をきっかけに44MAGNUMやMARINOのツアーサポートを務めることになったという。さらには、前述の『HEAVY METAL FORCE Vol.1』発表後、デビューの打診があり、EARTHSHAKERの石原慎一郎がアドバイザーになって、デモテープを作成し始めていたというのだ。そこで前任ヴォーカリストが脱退。オーディションで坂本に後任が決まるまで半年間、活動休止を余儀なくされたというから、デビューアルバム『ANTHEM~パワーメタル戒厳令』は1984年7月のリリースだが、メンバーチェンジがなかったらMARINOと同時期のデビューでもおかしくなかったであろう。つまり、ANTHEMは関西勢と同時期に日本のHR/HMシーンをけん引したバンドと言っていいのだと思う。
日本の“NWOBHM”を代表するバンド

さて、そのデビューアルバム『ANTHEM~パワーメタル戒厳令』。ひと言で言えば、とても勢いにあふれたアルバムであると思う。M3「LAY DOWN」やM8「BLIND CITY」といったミディアムもあるにはあるが、基本的には堅めのギターリフがグイグイと楽曲を引っ張るナンバーがほとんどで、M4「RACIN’ROCK」やM9「STAR FORMATION」といったシャッフルが典型だが、リズムはやや前のめりなほど突っ込み気味である。それがとてもスリリングで、本作がデビュー作であることを考えると、メジャーシーンに立ち向かう彼らの意気込みを体感させられるようでもある(M4とM9がミディアムといっても、このアルバム収録曲内で比較してミディアムということであって、他のバンドなら十分に速い部類に入るかもしれない)。

1 2次のページ
エンタメ
OKMusicの記事一覧をみる
  • 誤字を発見した方はこちらからご連絡ください。
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちらから
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。