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車内恋愛#02「10歳下の“恋愛対象外”男子は、クルマも思いも規格外?」後編

▲車を舞台にした、素朴で小さなラブストーリーをお届けします

▲車を舞台にした、素朴で小さなラブストーリーをお届けしますこのお話の前編はこちら

お土産、スキンシップ、説教、告白!?

予測不能な若者に、揺れ動く心

いけないいけない……。秋の感傷も手伝って、つい勝手にムードを作って盛り上がりかけていた。

自爆寸前で私は冷静さを取り戻し、静寂に気まずさを覚え、「何か音楽かけない?」と言った。

前を向いたままの彼がハンドルのボタンを操作して車内に爆音で流れてきたのは、星野源の「恋」。

あまりにも軽快なノリに、ずるっとシートから滑り落ちそうになる。なんなら小さな声で口ずさんでるし。さては恋ダンス覚えておるな、こいつ……。

「結局ガッキーみたいに透明感に溢れた女が好きなんかい」と、おばさんは聞こえないように悪態をつく。

あと、気になっていたのだが、さっきからコーヒーの匂いをかき消す勢いで馥郁(ふくいく)とした香りが車内に充満している。匂いの元とおぼしきアッパーボックスを開けると、もわっとした熱気と甘い香りが顔に直撃する。

「道中腹へるでしょ? 焼き芋、よかったら食べてください。これ、むっちゃウマイんすよ!」

アルミホイルに包まれた、まだ熱いくらいの焼き芋が車内から出てくる衝撃。おばあさんが焼いたのだそうだ。

彼の向こう側に見える温かな家族の姿が浮かび上がる。

おばあさんが持って行けと言ったおやつを、この年になって嫌がるでもなく嬉々として受け取る飛田くんの姿がすんなりイメージできて、なんだかほほ笑ましい。

飛田くんのどっしりとした安心感の源泉が何かわかったような気がする。初めてのデートで、ここまで素朴で優しいお土産をもらったのは初めてだ。

ムードはないが、旬の味覚は素材そのものだけで十分に甘く、優しくじんわり口の中に広がっていく。

illustration/cro

道中は混んでいた。週末の紅葉の盛りだ。無理もない。

こんなとき、狭い空間だとイライラが増長するものだが、この車はデッキのスペースの割に室内も広さが確保されているので助かる。

それでもしばらく座りっぱなしの体勢に少々疲れていた私は、あくびをかみ殺しながら、万年凝りに悩まされている首をポキポキと鳴らす。

「肩凝ってるんですか?」

飛田くんが聞くよりも速く、私の首根っこを突然、むんぎゅっとつかんできた。

その突然の出来事と力強さに驚いて声が出ない。飛田くんの手の温度は高いうえに想像どおりのホールド感で、さらに焦る。

「ここがツボなんですよ! 学生時代トレーナーに習ったんで、確かな情報です」

いや、そういう問題ではなくて……。

初めてのスキンシップが、手を握るでも肩を抱くでもなく、頚椎をわしづかみって、私は猫か。

「働き疲れたおばさんの体、手荒に触んないでよー」

と、私は照れを悟られまいとそっと彼の手から離れる。次の瞬間、

「おばさんとか言うの、やめましょうよ」

と険しい声が聞こえて私は耳を疑った。いつもの朗らかな飛田くんとは別人のような厳しい口調。年下の男子に突然怒られ、瞬間あっけに取られる。

「太田さん、おばさんじゃねーし。自分のことおばさんとか言って、楽しないでください。そういうの、太田さんのこといいと思ってる俺に対しても、失礼だと思います!」

唐突な説教と告白。しばしの混乱の後、状況を理解した途端恥ずかしくて顔から火が出そうだ。なんなのこの予測不可能な若人は……!

illustration/cro

気まずさから意味もなく膝に抱えていた上着を後部座席に置こうとしたとき、何かに触れる。見るとそれは、登山用の杖だった。

「これ、何?」

と聞くと、飛田くんは、

「あー、ばあちゃんのです」

と答える。聞けば、おばあさんは趣味が登山だという。

飛田くんはおばあさんが登山する際、時間が合えばこの車で送っていくのだ。

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