プレミアムフライデーを総括。経済効果や国民への影響はどうだったのか?

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プレミアムフライデーを総括。経済効果や国民への影響はどうだったのか?

盛り上がりに欠けるプレミアムフライデーの現状をデータで振り返る

昨年2月24日から、毎月最終金曜日に、15時までには仕事を切り上げて、映画鑑賞や外食、泊まりがけの旅行など消費や余暇活動の充実に充てるプレミアムフライデー(PF)がはじまりました。

PFは、2016年12月に設立された経団連等15の経済団体と経済産業省による官民連携の「プレミアムフライデー推進協議会」が、米国のブラックフライデーをモデルとして設定したものです。

ここまで10ヵ月間に渡り、毎月PFを実施していますが、果たしてどこまでPFは社会に浸透しているのでしょうか。

その実態を知るために、DeNAトラベルが1月9日に発表した「プレミアムフライデーの振り返り」に関する調査結果が役に立ちます。
以下、引用です。

Q勤め先でプレミアムフライデーは導入されたか?
89.4% 導入されていない
10.6% 導入されている

(以下の質問はプレミアムフライデーが導入された企業の方に対するもの)
Q今後の継続可否は?
66.7% 継続予定
4.4% 中止予定・条件を変更予定
3.3% 検討中

引用ここまで。

DeNAトラベルは、PF実施前の2017年1月に今回のアンケート調査と同一内容で、事前のアンケート調査を行っていたので、今回の振り返りの結果と比較してみると、当初の思惑と実態の間に大きなズレが生じていることが分かります。

以下、引用です。

Qプレミアムフライデーは誰と一緒に過ごしたいか?(過ごしたか?)
[事前]
50.1% パートナー
48.1% 一人
45.6% 友人
16.3% 子供
[実際]
41.5% 一人
18.2% パートナー
12.1% 仕事関係の人
8.1% 実際は休めなかった

Qプレミアムフライデーは何をして過ごしたいか?(過ごしたか?)
[事前]
70.9% 旅行
46.4% 自宅でゆっくり
36.0% 買い物
33.6% 外食
27.1% 映画鑑賞
[実際]
41.4% 自宅でゆっくり
27.3% 外食
21.2% 買い物
20.2% 仕事
11.1% 旅行

Qプレミアムフライデーが導入されると出費はどうなるか?(どうなったか?)
[事前]
38.1% 増えそう
36.3% やや増えそう
22.2% 変わらなそう
0.4% 減りそう

[実際]
15.2% 増えた
14.1% やや増えた
69.7% 変わらない
1.0% 減った

引用ここまで。

この調査結果が示すことは、1年近く経過した現在、PFを実際に活用している人が1割程度に留まっていることです。また、PFの典型的な過ごし方は「一人自宅でゆっくりと」が現実で、事前に期待していた「パートナーと旅行」という過ごし方は絵に描いた餅となっているようです。

現状ではプレミアムフライデーは目論見どおりの経済効果を生んでいない

DeNAトラベルの調査における「PFの出費」についても注目すべきでしょう。当初は出費が「増えそう」と「やや増えそう」を合わせると74.4%にもなっていましたが、実際には「増えた」と「やや増えた」が29.3%、「変わらない」が69.7%となり、大きなズレが生じています。

そもそもPFが導入された背景には、アベノミクスの「新三本の矢」の1つである「名目GDP600兆円実現」があります。つまり、伸び悩む個人消費を拡大するために行われた施策なのです。

PF導入前には、EY総合研究所というシンクタンクが「プレミアムフライデーの経済効果は5000億円以上」と大々的に打ち出しましたが、実際どの程度の経済効果が発生したかについて、事後の検証をプレミアムフライデー推進協議会が行った形跡がありません。

そこで、総務省統計局『家計調査』の「1世帯当たり1か月間の日別支出(勤労世帯)」の金額から、PFが個人の消費行動にどのような影響を与えたかを見てみましょう。

2017年2月から11月までの10ヵ月間におけるPF当日と2016年の最終金曜日における消費支出を比較してみると、消費総額では前年より193円増なので微増の範囲です。しかし、外食・衣服・履物・教養娯楽といったPFにより消費増が期待されている分野に限ってみると、102円減となり、政府の目論見とは正反対の結果になっています。

もちろん、家計消費に影響を及ぼす因子は、PF以外にも天候など多数ありますが、当初打ち出していた5000億円以上の経済効果が生じているとは到底言えない状況です。

なぜプレミアムフライデーがうまくいかないのか?3つの理由を解説

その理由として、大きく分けて3つが考えられます。

企業側に導入メリットがほとんどない

一つ目は、企業側がPFを導入するために予想以上に手間がかかる割にメリットがほとんどないことです。

「毎月最終金曜日は、午後3時に退社しなさい」と会社が号令を掛ければ済むほど、PFの導入は単純ではありません。フレックスタイム制を採用していない企業の場合、就業規則で例えば午前9時から午後5時までを勤務時間とすることを規定しています。

単純に考えると、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されて、早上がりした時間分、給料が減額されても不思議はありません。では、就業規則を変更して「毎月最終金曜日の勤務時間は変える」方法もありますが、その場合、所定内労働時間の減少を招くことになり賃金の低下につながるため、労働者側からすると就業規則の不利益変更となります。

そこで、労働者の合意が必要になります。他の解決手段としては、毎月半日分の有給休暇を新たに付与してPFで使ってもらうとか、変形労働時間制を導入するとかがありますが、どの方法を採用するにしても、その企業の勤務体制を根本的に見直すことが必要になるために、企業側には大きな手間がかかります。

その割には、PFを導入することで、社員満足度が少し向上することくらいしか期待ができず、トータルのメリットは低いという判断をする企業が多いのは当然でしょう。

そもそも消費すべきお金が手元にない

二つ目は、PFによって個人消費を刺激するというアベノミクスの考え方には、「国民は十分お金を持っているにもかかわらず、労働時間が長すぎてお金を使う時間的な余裕がない」という前提が置かれています。

しかし、実質賃金の推移を見ると、2012年度から2015年度まで前年比マイナスの状態で、2016年度は通年でプラス0.7%になりましたが、10月以降は前年同月比マイナスとなっています。

さらに付け加えると、2016年に実質賃金をプラスに転じさせた主因は、物価下落幅が大きかったことなので、デフレ脱却というアベノミクスの目標からすると両手を上げて喜べる状況ではありません。

国民の多数にとっては、そもそもお金を使いたくてもお金そのものが手元にない状況が続いているのに、政府や経済界が号令をかけても消費が増えるはずはないでしょう。

個人消費の拡大という本来の趣旨が曖昧になった

三つ目は、そもそもPFの導入前には、個人消費の拡大や刺激という単一の目的に絞られていたにも関わらず、途中から「働き方改革」実現のための手段の一つという目的が相乗りしてきて、本来の趣旨が曖昧になったことです。

当初「プレミアムフライデーが狙うのは、従来よりも上質なイベントを楽しむ消費トレンドの創出だ」「まだ喚起されてない部分の消費を刺激したい。新しい消費需要を作り出したい」と推進協議会関係者が語っていました。

この目的を達成するだけでもハードルが高いのに、「働き方改革」の話を持ち込んできたことで焦点がぼけて、「二兎を追う者は一兎をも得ず」の典型的な状況になっています。

「サービスを提供する側」には導入されない制度

当初から、PFの日にサービスを提供する側の外食・流通・小売・宿泊・交通といった業種の企業が自社でPFを導入することは、あり得ない話でした。

PFという制度自体が、それを利用する人とできない人の存在を前提としているため、公平性や普及度が重要となる「働き方改革」の施策として、PFは適当ではありません。

PFはあくまでも、個人消費の拡大という単一の目的に絞るべきです。その上で、実質賃金の増加が継続的に実現することが、PFが当初の目論見どおりに機能する条件です。

プレミアムフライデーが導入されて1年近くが経過しますが、現在の状況を考えると、プレミアムフライデーが今後ますます活況になる可能性は低いと思われます。

(清水 泰志/経営コンサルタント)

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