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天才棋士・羽生善治が見た人工知能の可能性。そして、人間に突きつけられる課題とは

天才棋士・羽生善治が見た人工知能の可能性。そして、人間に突きつけられる課題とは

2016年、人工知能囲碁プログラム「アルファ碁」が世界的囲碁棋士を打ち破り、大きな話題になった。また、2017年5月には将棋界においても、佐藤天彦名人が電王戦で敗北を喫した。

1996年の「将棋年鑑」には、「コンピュータがプロ棋士を負かす日は?」というアンケートがあり、ほとんどの棋士は「永遠にこない」「100年は来ない」という回答をしていた。

しかし、その中で「2015年」とほぼ正確に敗北を予言していた一人の棋士がいた。

2017年末に永世七冠を達成した、羽生善治氏だ。

そんな羽生善治氏が、人工知能の研究現場を訪れ、人工知能の可能性と問題、AI社会において人間に求められる課題について考察した一冊が『人工知能の核心』(羽生善治著、NHKスペシャル取材班編、NHK出版刊)だ。

2017年3月に出版されている本書だが、羽生氏による考察は、棋士としての私見を交えながらもその慧眼で人工知能の本質を見事に捉えている。専門家や研究者とは違った視点で人工知能について考えさせてくれるだろう。

■「美意識」を持たない人工知能の可能性

羽生氏は、「アルファ碁」の開発者を訪れ、ディープラーニングが「引き算の思考」をすることに注目している。

将棋では、指し手を考える「読み」の前段階として、「直観」によって考える必要のない手を絞る作業があるという。「直観」とは、経験や学習の集大成が瞬間的に現れるもので、勘とは異なる。

人工知能は、この「直観」にあたる思考プロセスを「引き算」によって行っている。これは人間の思考の強みを、かなり近い形で人工知能が取り入れているということだと羽生氏は語る。

しかし、両者には大きく異なる部分もある。それが「美意識」だ。

将棋には、筋の通った指し手というものがあり、そうして配置された駒は、「美しさ」を持つ。羽生氏によれば指し手の取捨選択の核となるのが、この「美意識」なのだという。

「美意識」は、人間の持つ安定や安心という感覚に近いが、人工知能には恐怖心がないため棋士のような「美意識」がなく、計算によって最良の選択をする。

羽生氏は、ここに一つの可能性をみる。人間にとって「美意識」は経験による裏打ちで最適解を導くものだが、人工知能は人間の「美意識」から外れた悪手の中からでも最適解を掘り起こす可能性があるのだ。

アメリカの治安の悪いある街では、人工知能にパトロールの行き先を決めさせている。人工知能は勤続20年のベテランが「この時間のこの地域は安全だ」と思っている場所へのパトロール指示も行う。それは膨大なデータに裏打ちされており、結果的に犯罪率は劇的に下がったという。

人工知能は、時に「美意識」によって狭められる人間の視野を、広げてくれる可能性があると言えるだろう。

■人工知能は「万能」か?

2016年1月、人工知能による短編小説が星新一賞の一次審査を通過した。また同年4月には人工知能が描いた、画家レンブラントの「新作」も話題になった。金融や医療の世界にも人工知能が進出しており、万能感を見せる人工知能だが、もちろん発展途上な領域や実現が難しい事柄もある。

倫理の問題はその最たる例だ。

SF作家アイザック・アシモフのロボット三原則は有名だが、もっと様々なケースに即した細かいルールを定めなければ、現実社会への適応は難しいという。

例えば、哲学・倫理の命題に「トロッコの問題」というものがある。簡単に言えば、「ある状況下において、5人の人間を犠牲にするか、人の人間を犠牲にするか」という問題だ。これは人によって規範とされる考え方が変わるので、全世界共通の倫理観がない限り答えは出ないだろう。

また、人工知能は数少ないパターンから物事を判断する「推論」や、ある意図を持って描かれた図や言葉、事柄を判断する「理解」も難しいという。

これらの問題を人工知能が行えるようになるには、まず人間がそれらの物事をどのように捉え、規定するかが必要だ。その意味では人工知能研究は、人間の知性や社会を高みへと導く入り口なのかもしれない。

■人工知能は「人の知性」を問う現象である

羽生氏は、人工知能は様々な領域での可能性を示唆しながら、その発展によって「自分の頭で課題を考えること」や「未知の局面における対応力の低下」を懸念している。

今後、社会全体として人工知能をまったく使わないという選択肢はないだろう。

その状況下では「何が失われるか」を危惧するより、「変わることに対して、いかに対応するか」を考えることが必要だ。

人間を超える能力を持つ人工知能は、人間の知性についてより深く考える機会であり、知性というものと向き合わざるを得ない一つの現象。そう捉えることができるのではないだろうか。

(ライター/大村佑介)

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