臼井孝のヒット曲探検隊~アーティスト別 ベストヒット20Vol.2 コブクロ

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CD、音楽配信、カラオケの3部門からアーティストごとのヒット曲を読み解く『臼井孝のヒット曲探検隊』。さて、今回は男性2人組のコブクロのヒット曲を探ってみたい。
 (okmusic UP's)
インディーズ時代から 大阪では既に人気を確立

コブクロは大阪府出身の黒田俊介(メガヒットを経験したアーティストではおそらく日本一長身の193cm)と宮崎県出身の小渕健太郎による男性デュオ。1998年に結成後、関西を中心としたインディーズ活動を経て、2001年3月22日にシングル「YELL~エール~」にてメジャー・デビュー。インディーズ時代から人情味あふれる歌声やキャラクターから大阪では既に人気を確立していたことや、ゆずや19など男性フォーク・デュオに追い風が来ていたこともあり、いきなり週間TOP10入りを果たした。

その後は「Yell」を超えるヒットはないものの、関西を中心に人気を維持してアルバムはTOP10入りをキープしていたが、2004年の「永遠(とわ)にともに」がNHK『みんなのうた』に起用され、しばらくして結婚式ソングとしてロングヒットをすることで、あらためてその楽曲の普遍性が注目されるようになり、以降TOP10入りをキープ。

さらに、2005年からは大手芸能事務所の研音との業務提携を行なったこともあり、所属タレントがメインで出演するドラマの主題歌をコブクロが担当したことも、彼らのヒット継続に大きく貢献した事だろう。実際、彼らの代表作と言われ、2007年に日本レコード大賞を受賞した「蕾」を含み、2005年の「ここにしか咲かない花」から2008年の「時の足音」までのシングル6作がすべてドラマタイアップに起用された。
ただ、こういった“バーター”的な案件は、研音に限らず大手事務所ならジャニーズ、スターダストプロ、ライジングなど普通に見かけることだが、“ゴリ押し”と揶揄されずにヒットを連発したのは、黒田の泣きの入る寸前のような歌声や小渕が手掛けるドラマティックな曲想など、感動させうる要素が詰まった楽曲を送り出していることが要因であることは言うまでもない。

特に、05年の初冬に発売された「桜」は、彼ら初のオリジナル曲としてインディーズ時代から人気で、その冬を耐えて花を咲かせるという作風や彼らの徐々にブレイクしていくという軌跡が見事にシンクロして翌年春までロングヒット、これが2006年発売の初のベスト盤『ALL SINGLES BEST』が300万枚を超える大ヒットにもつながった(ちなみに「蕾」は、この後のシングルであり、本作には収録されていない)。

2011年には、黒田、小渕ともに体調の不良から半年間の休業はあったものの、2017年発売の28作目となる最新シングル「心」まで19作連続でオリコンTOP10入りを果たしている。大半の非アイドル系のアーティストが、ファンの複数購入を狙った多種類の販売戦略によりTOP10入りを逃していく中で大健闘と言えるだろう。
やはり、それはファンとの距離感を感じさせない作風やトークに加え、ファンクラブの親切な対応もファン継続に一役買っているように感じている。具体的にはファンクラブ限定仕様のシングルやアルバムを発売したり、ライブのチケット転売問題がこれだけ大きな問題となる5年以上前から、入場時の本人認証制度や会員間の定価でのチケットトレード制度を導入したりしていたことだ。確かに、これだけ“自分の為に頑張ってくれている”と思うと、ファンってなかなか辞められない。

そんなコブクロの代表曲をあらためて探ってみたい。…多くの方がイメージするように、やはりバラードが中心だろうか(微笑)。
総合1位は「蕾」 (2007年発売 14thシングル)

総合1位は2007年の14thシングル「蕾」で、彼らのシングルでは唯一50万枚を超えている。また、ダウンロードでも唯一200万件を突破。レコチョクの年間ランキングでも2007年度4位、2008年度9位と、2年間にわたってロングヒットした(彼らの楽曲の中でレコチョク年間ランキングTOP10に入ったのは、現在までのところ「蕾」のみ)。

前年に発売された2枚組ベスト『ALL SINGLES BEST』が2007年初には200万枚を超えてノリに乗っていたことに加え、フジテレビの月9ドラマ『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』(主演:速水もこみち=研音所属)の主題歌に抜擢され、リリー・フランキーの原作の評判もあって、ドラマのヒットも高初動を大きく牽引した。

しかし、ドラマ終了後も長くロングヒットとなり、さらに日本レコード大賞受賞にも不平不満が挙がらないほどのその年の代表作となったのは、やはり彼らの泣きの要素がギュッと凝縮されたようなサビの歌詞、メロディー、歌声があってのことではないだろうか。実際、この部分は、その後も芸人が歌うモノマネ番組でも歌われる機会が多く、その度に翌日の配信チャートは大きく再浮上するほどだった。ちなみに、この黒田の泣きのボーカル部分のモノマネが最も上手いのは、他ならぬ小渕で、ライブやTV番組のトークでもネタになっているほど。
総合2位は2005年の12thシングル「桜」。本作もCDがTOP200を1年以上ランクインするほどのロングセラーで累計43万枚以上のヒットとなっているが、3つのセールスピークがあったことも結果的にビッグヒットとなった要因だろう。

1つ目のピークは発売直後。通常、春先に発売されることの多い桜ソングとは3か月以上早い2005年11月に発売することで、“夢を咲かせる”という意味がよりクローズアップされた。彼らがインディーズ時代に発表していた楽曲というのも、より歌詞の内容をリアルにしたであろう。

2つ目のピークは年が明けてフジテレビ系ドラマ『N’sあおい』の主題歌に起用され、ドラマ開始と共に再浮上したこと。通常、ドラマタイアップ曲のCD発売は放送開始から1か月前後経過した時期なのだが、本作の場合はその頃(2006年2月)に冬の桜が満開になるという粋なジャケット違い&DVD収録シングルを発売したこともロングヒットを助長した。

そして、3つ目のピークは、春になって桜ソング特集が組まれることで、三度注目を浴びることに。03年の森山直太朗「さくら(独唱)」。04年の河口恭吾の「桜」、そして05年のケツメイシの「さくら」に次いで、06年の本命ソングとして紹介され、累計21週間におよぶTOP20入りを果たした。
さらにダウンロードでは、春になる度に配信チャートでは上昇するほどの定番ソングに。CDセールスでは福山雅治「桜坂」や森山直太朗「さくら(独唱)」のミリオンヒットが目立っているが、今でも配信で“売れ続ける”となると、ケツメイシ「さくら」とこのコブクロの「桜」が突出している。これも彼らに“記憶の名曲”が多い証だろう。

個人的には、コブクロのヒットは故・吉田敬氏(2010年に逝去)の貢献も多大だったように思う。氏はソニーにて平井堅やCHMISTRYなど数々のヒットを手がけていたところに、2003年にワーナーミュージック・ジャパンの社長に抜擢、その後、当時、ニューカマーが少なかった同社の邦楽部門からコブクロ、絢香、BONNIE PINK、Superflyなどを次々とブレイクさせた。

コブクロの「桜」についても、まだ発売前の段階から「新幹線の中で聴いて号泣して、これはシングルにすべきだと思う」と、とあるインタビューで答えていたのが印象的だった。それだけ彼らの再起を信じていたのだろう。
総合3位は「ここにしか咲かない花」 (2005年発売 11thシングル)

総合3位は2005年の11thシングル「ここにしか咲かない花」で、こちらも日本テレビ系『瑠璃の島』の主題歌とドラマタイアップ曲となった。沖縄の小さな離島に一人で渡った少女が主人公で、育児放棄や里子制度、過疎化社会などを扱った人間ドラマだったが、温かな歌声が見事にマッチして、前作「永遠にともに」で知られた彼らの人気に弾みをつけることとなった。

総合4位は2010年代では、CD、配信共に(2017年時点で)彼らの最大ヒットとなっている19thシングルの「流星」。フジテレビ系ドラマ『流れ星』の主題歌に起用され、人生に絶望しながらもそれでも困難に立ち向かっていくというストーリーと、《何度引き裂かれても 遠ざかっても繋がったままの》といった歌詞がシンクロしていることから、配信ではドラマ終了後もロングヒットとなり、ミリオンヒットとなった。
総合5位は2004年の10thシングル「永遠にともに」。《共に歩き 共に探し》と“共に”の12連発というインパクト抜群の本作は、小渕が友人の結婚式に向けて実際に作ったというリアルなエピソードと、NHK『みんなのうた』に起用されたことの相乗効果から幅広い世代に浸透し、CDでは約3年半ぶりのTOP10入り、TOP200内の登場週数は驚異の99週、累計15万枚以上のヒットとなった (ちなみに、コブクロにはCDランキングでTOP200内の登場週数が50週以上のロングヒット作が「蕾(つぼみ)」71週、「桜」66週、「ここにしか咲かない花」51週と、4作もあるのだ)。

注目すべきは本作が配信でミリオンヒットとなっていることだ。発売した2004年当時は、まだフル音源のダウンロード購入がメジャーではなかったが、結婚式ソングとしてじわじわと数字を伸ばしていた。そこへ、2007年5月、陣内智則がピアノ弾き語りにて自身の結婚披露宴にて披露したところ、全国ネットでTV中継されていたこともあり、一気に人気が加速、旧譜ながらその年のレコチョク年間12位となり、遂にはミリオンヒットを記録した。その2年後離婚したこともあり、一時は“縁起が悪い”と敬遠されたようだが、今ではまた結婚式ソングの定番に復活している。これも楽曲のチカラだろうか。

なお、CDシングルで両A面扱いだったもう一曲の「Million Films」もダウンロードで50万件を突破。こちらは発売当時、NTT西日本のイメージソングだったが、2007年ごろにカルビーのポテトチップスCMソングに起用され、前年発売のベストの大ヒット後ということもあり、こちらも2007年に年間TOP10入り、累計50万件のヒットとなった。他の楽曲よりも爽快さが際立つのは、小渕がメインで歌っているパートが多いからだろう。。
総合9位はインディーズ時代の 楽曲「赤い糸」が大健闘

総合9位にはシングル表題曲ではない「赤い糸」がランクイン。カラオケの4位、ダウンロードでの5位(ライブバージョンの25万件を加算すればミリオンヒット)は大健闘と言えるだろう。

「赤い糸」はインディーズ時代の楽曲で、つき合いはじめたカップルのすれ違いと仲直りが描かれた、ほっこりとするラブバラードで、そのストーリー仕立てや共感のしやすさから、メジャー・デビュー後のライブでも人気を得てきたこともあり、2007年のシングル「蒼く 優しく」のカップリングとして、「赤い糸 ~LIVE at 大阪城ホール 2007.07.05~」を収録したところ配信ヒットとなった。

さらに翌年、新垣結衣が2008年10月の2ndシングルにて、この「赤い糸」をカバーし、同時期のコブクロのシングル「時の足音」のカップリングに、スタジオ録音版も発表。しかも、そのミュージックビデオには新垣結衣も出演するという、まさにテレビの情報番組やネットニュースがネタにしたくなるほど、絶妙なコラボレーションが展開されている。

TV番組『MUSIC FAIR』での共演がきっかけとなった絢香×コブクロの件といい、口蹄疫による深刻な被害で苦しんでいた故郷を支援するために繋がった今井美樹×小渕健太郎 with 布袋寅泰+黒田俊介で発売した2010年のシングル「太陽のメロディー」といい、コブクロは楽曲発表にもストーリーがあることが多い。そして、それがとても自然なことも、報道されやすい秘訣でもあるのだろう。
ちなみに、コブクロは配信でのミリオンセラーが「蕾(つぼみ)」「桜」「永遠にともに」「流星」、そしてこの「赤い糸」と実は5作も出ている。これは、当時“着うたフル”と呼ばれていたシングル・ダウンロードが活発だった2007年~2009年頃に、彼らのピークがあったことも大きく影響しているが、「桜」(2005年)や「永遠にともに」(2004年)などブーム前の2作もミリオンを達成していることから、やはり彼らがライトなリスナーにまで幅広く支持されたことが主要因だろう。

また、絢香×コブクロの「WINDING ROAD」は100万件以上、「あなたと」は25万件以上と、こちらもヒットしている。2作とも日産キューブのCMに起用され、前者はこれから走り出していく弾むような曲調、後者はその帰り道のようなしんみりとしたバラードというのも上手い。どちらも幅広い年代に支持される熱唱派ということも相乗効果を生み出したのだろう。
そういったCDやダウンロードは市場の縮小化ゆえやや控えめな順位だが、カラオケでの堂々の1位によって、総合10位となった2015年発売の27thシングル「未来」にも注目してみたい。「桜ソング」の定番として歌われ続けている「桜」や、CDや配信でメガヒットとなった「蕾」や、を上回ってカラオケ1位となっているのは、かなりハイレベルなリクエスト回数と言えるだろう。

本作は、若い女性に人気のコミックを原作とした同年12月公開の映画『orange』の主題歌で、土屋太鳳と山﨑賢人が主演を務めたことも話題となり、さらに翌年2月にはテレビアニメも放映。コミック、映画、アニメ、小説と、まさに近年のメディアミックスのヒットパターンに上手く乗れたことが、幅広いファン層、特に若いファンにも支持を広げるきっかけとなったことも、カラオケ人気に繋がったのだろう。

しかも、本作は映画公開月の2015年12月にCDが発売された後、翌年3月に “Spring Package”を発売し、CDのロングヒットにも繋がった。もともと、「未来」のジャケットは、「桜」のジャケットの相似形としてまだ開花前の桜と、さらに歩みを進めたコブクロが描かれていたが、この“Spring Package”では、その桜が満開になっているのと同時に、原作者である高野苺が登場人物を書き入れたものがジャケットとなっており、こうした演出もファンの購買欲求を駆り立てる。コブクロにはオリジナルアルバム『TIMELESS WORLD』と『NAMELESS WORLD』のデザインが対を為しているなど、こうしたビジュアル面でのサービス精神も豊富なのが特長だ。

もちろん最大の持ち味は、彼ららしい優しいメロディーと泣ける歌声で、本作ではさらにこれまで以上に文学的な匂いを感じさせる日本語の歌詞も大きな魅力だろう。
コブクロがワンパターンなのではない

こうして3部門で決まった総合ランキングを見ると、「蕾」「桜」「ここにしか咲かない花」「流星」、そして「永遠にともに」と、黒田が上体を曲げながら、小渕が眉間に若干のしわを寄せながら、半泣き寸前の声で熱唱しているのが思い浮かぶような名曲がずらりと並んだ。

彼らの楽曲は決してこういった曲調ばかりではなく、穏やかなミディアム・チューンや、ややコミカルなポップ・チューンも存在する。そう、彼らがワンパターンなのではない。むしろ、ワンパターンなのは我々リスナーなのだ。もっと言うと、あの二人の泣きのコンビネーションを堪能してしまうと、他の楽曲が霞んでしまうほど、最強かつ必殺のパターンになっている気がする。

総合14位の「風」も、その最強パターンが“踏襲”されている。本作は2002年2月の4thシングルで、発売当時は様々なポップ・アイコンの女性ソロや男性R&Bに注力されていた頃で、フォーク系統の本作はノンタイアップ、またシングル配信が本格化する前だった。

しかし、04年に再ブレイクしてからは、ライブなどで「風」も再注目されることが多く、06年にはベスト盤『ALL SINGLES BEST』の中でのリード曲の一つとして紹介されることも増え、遂には発売5年目にしてレコチョクの年間85位に登場。その年の『NHK紅白歌合戦』でも披露されこととなった。2006年に大ヒットした「桜」を前の年に歌ってしまっていたから、という意地悪な見方もできなくもないが、大ヒットでもない「風」が歌われたのは、NHK側も歌唱を認めるほど、誰もがその“名曲感”に納得したのだろう。

今後、もしかして、個々のソロ活動や他アーティストへの楽曲提供が多くなったり、彼らがライブに軸足を置いたりして、新曲発表がスローペースになろうとも、また、今後、ヒットのバロメーターがダウンロードからストリーミングや動画再生回数に変わろうとも、彼らが“最強パターン”を見せる限り、永遠にコブクロの楽曲はヒットすると強く感じている。
プロフィール

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元国立大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽市場の分析やau MUSIC Storeでの選曲、さらにCD企画(松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルや、演歌歌手によるJ-POPカバーシリーズ『エンカのチカラ』)をする傍ら、共同通信、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆。日経エンタテインメント!2018年1月号では、年間ヒットランキングの音楽部門を担当。CDのみで分析していた01年から担当していますが、それから着うた(後にシングル・ダウンロード)、動画再生回数、ビルボード総合と要素が増え、今年はサブスクリプションのSpotifyも取り上げています♪

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