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とある介護職員のとある日常「介護職冥利」

少し前の話し。

夕方になると山から山へ徘徊にでかける、
とある高齢者の女性。

ご家族からの捜索願いも度々あったとのこと。

いつからか、その女性は外から鍵がかかる部屋に閉じ込められるようになった。

トイレに行きたくても行けないからゴミ箱で用を足す。
押し入れをあけて用を足す。

だんだん症状は酷くなる。
家族は早く施設に預けたいの一点張り。
会話もなく、食事も一緒にはとっていなかった。

(そんな方が)
うちの施設を利用したいとケアマネさんから連絡を受けた。
ケアマネさんから話を聞きながら、不安しか浮かばなかった。
でも、受け入れたいと思い、ケアマネさんと共に初めて自宅を伺った時、畳や壁には引っ掻いたような跡をいくつも見つけてしまった。哀しい痕がたくさんあった。

その方は穏やかな船場言葉を話す小柄な方。
壁や畳の傷は自分がつけたものじゃないと言わんばかりの知らん顔。綺麗な顔立ち。品がある。だから奇妙な行動をするようには見えなかった。

うちは365日営業していて、泊まりができるデイだったので、泊まり併用での利用が始まった。

そんなある日。

夜中に居なくなったと夜勤者から連絡があった。
どこにも居ない。スタッフも泣いてる場合じゃない。探すしかない!手分けして探した。
必死になって探した。

警察や家族にも直ぐに連絡を入れた。
家族は飲酒した後だから、こちらには向かえないと。

仕方がない、家族の協力は得られない。

悲しい気持ちを押し殺す。

川の方まで探しに走った。
真冬の夜中、何かあったらどうしよう。

それしか考えていなかった。
川の中に服のようなものが見えた、
水の冷たさなんか気にならなかった。

利用者さんに何かあったら取り返しがつかない!思わず川に向かった。

服は見たことのないものだった。良かったあ。

携帯が鳴った。
夜勤者からだった。

利用者さんは押し入れの中にいた。
トイレの場所がわからず、夜勤者が男性だったので怖くて隠れていたとのこと。

事務所でその方の顔をみた瞬間、その人は私にしがみついてきた。

小さな背中をしっかり受け止めながら、これからはこの人のために安心して過ごせる場所を作ってあげなきゃ!と決心した瞬間だった。

それ以降、夕方の徘徊に付き添い、納得いくまで歩き続けた。

しんどくて嫌な日もあった。
営業から帰って一息つく間もなく一緒に出掛け、近所の方のご自宅に咲いている花を分けてもらったり。

そうこうしているうちに、この人は旅館の女将さんだったことがわかった。

夕方になると駅から店までの道にゴミが落ちていないか、どんな花が咲いていたか…
日々、小さな話のたねを探していたよう。

それが夕方の徘徊につながっていたんだと気づかされ、ようやくその人の生きてきた証や足跡に踏み込めたような気がした。

穏やかな表情でデイの周りや近所の掃除をすることが日課になり、近所の方からも大事にされるようになったころ、徘徊はなくなっていた。

落ち着きをとりもどし、愛嬌と気品を兼ね備え、周りに気を配ることが普通に出来るようになった時、ケアマネさんから、施設への入所が決まったことを告げられた。

お別れの日、カーディガンの背中を見送る私、その背中が見えなくなるまで手をふりました。

介護職冥利に尽きる出会いと別れでした。

前回記事:とある介護職員のとある日常「思い出作りをともに」

この記事を書いた人

山川洋子

支援学級にて筋ジストロフィーやアスペルガーのある児童のケアをきっかけに介護と出会う。現在は医療法人松下会デイサービスエリクシールの生活相談員に従事。その傍ら、施設の業務改善アドバイザーを承ったり、地域で困っている方を、保険外でお手伝いしたり、外出サポートなども行う「チームおたがいさん」も行っている。介護福祉士、認知症介護実践者。

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