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誉田哲也さんの『幸せの条件』から幸せの形は一つではないと考えさせられた——アノヒトの読書遍歴:河邉徹さん(後編)

誉田哲也さんの『幸せの条件』から幸せの形は一つではないと考えさせられた——アノヒトの読書遍歴:河邉徹さん(後編)

2009年にメジャーデビューしたロックバンド「WEAVER」のドラマー兼作詞を担当する河邉徹さん。音楽活動を続ける傍ら、普段は本も読むそうで、小学校の頃はよく漫画を読んだとか。最近では平野啓一郎さん『マチネの終わりに』を手に取り、主人公のクラシックギタリストに感銘を受けたそうです。そんな河邉さんに、前回に引き続き、日頃の読書の生活についてお伺いしました。

——音楽活動をする中で、影響を受けた作品は何かありますか?
「吉田修一さんの『路(ルウ)』ですね。映画化された『怒り』などでも有名な方で、僕が大好きな作家さんです。この作品の舞台は台湾、そのなかでも高速鉄道が開業されるまでの2000年から2007年が取り上げられています。主人公は複数人いて、色々な人の視点から物語が進んでいきます。例えば、日本から高速鉄道のスタッフとして赴任した女性だったり、現地の台湾人の方だったり、昔台湾に住んでいたけど今は日本に住んでいる70歳くらいの男性だったり。ちなみにこの男性は、台湾の高速鉄道が走るというニュースを見て台湾に住んでいる親友のことを思い出したり…と、いろいろな人物が登場してきます」

——この作品のどんなところに魅力を感じましたか?
「いろんな視点から台湾が描かれているので、読んでいてすごく映像が膨らむんですよね。こんなのを食べてるんだとか、こんな景色なんだとか、こんな匂いがするんだとか。そういうことを読んでいて思うので、勝手に自分が行ったことあるような気持ちになっていきます。僕も昨年、バンドのライブで初めて台湾でライブをしたんですけど、この小説を読んでいたおかげで、勝手にこの街のことを詳しいような気持ちになっていて。それってすごくおもしろいことで、僕は別に台湾に関する資料とかを調べて読んだわけではないのに、小説を読んだだけでそんな気持ちになるって。改めて小説とか物語の力っていうのは不思議だなって思いました」

——歌詞を書いたりする中で、インスピレーションを受ける部分はありますか?
「吉田修一さんの作品は不思議と情景が浮かぶんですが、ぜひそういうところを、読んで学びたいなと思いますね。ちなみに、『Wake me up』という楽曲があるんですが、乾くるみさんの『イニシエーション・ラブ』からインスピレーションを受けました。これは小説も読んだし、映画も観たりしたんですけど、ちょっと不誠実な恋愛というか、そういうところを自分も歌詞にできたらなと思って、画の世界観から触発されたという感じでしょうか。そういうところは実際何か物語とか小説とかからインスピレーションを受けることが多いですね」

——小説からインスピレーションを多く受けるのですね。
「はい、自分が歌詞を書くということもあったりして、物語の力っていうのを今はすごく信じていて、そこには人を動かす力があるんじゃないかと思うので、小説を今はとにかくできるだけたくさん読もうと思っています。その中で、誉田哲也さんの『幸せの条件』という小説もおもしろかったです」

——どんな内容の作品かぜひご紹介ください!
「誉田さんと言えば、ちょっとサスペンスというか、ちょっとエッヂーなものをイメージする方も多いと思うんですけれど、この作品はもうちょっとほんわかとした感じの作品になっています。主人公がやわらかい感じの女性なので、読んでいてすごく楽しい気持ちになれる小説だと思います。主人公は、あまり仕事ができる感じではない梢恵という名前の24歳のOL。冒頭からいきなり『会社に行きたくないな』っていう感じの緩いテンションが描かれていたりして、人柄が伝わってきます」

——この作品の魅力的なところをぜひ教えてください!
「梢恵が勤めている会社の社長がちょっと変わりもので。思い付きで梢恵に『新しい燃料であるバイオエタノールを作るための米を作ってくれる農家を、長野に行って探して来い』って急に無茶振りをするんです。で、実際長野に彼女は行くんですけど、彼女自身全然知識もないし、農家の方にお願いしても、そんな採算の合わないものは作れないっていう風に断られるんですよね。そこで彼女が見つけるまで帰れないという事情を話すと、しばらく農家で実際に農業を経験してみないかと誘われて。それを社長に相談したら、実際に暮らしてこいという風に言われて…そうやって彼女は、急に都会から田んぼが広がっているようなところで暮らし始める、そんな物語になっています」

——この作品を読んでどんな感想を持ちましたか?
「幸せの形というのはやはり一つではなくて、自分が全然想像しなかったところにあったりするのかなという風に思いますね。最近のWEAVERの中に『Shake! Shake!』という楽曲があるんですけど、この歌詞の中にも、家庭を持つことだったり、仕事を頑張ることだったり…何が一番幸せなんだろうというところを歌詞にしたりもしているんですけど、この『幸せの条件』という小説からも、やっぱり幸せの答えっていうのは一つじゃないんだなっていうことを考えさせられましたね」

——河邉さん、ありがとうございました!

<プロフィール>
河邉徹 かわべとおる/1988年生まれ、兵庫県神戸市出身。ロックバンド「WEAVER」でドラマーを担当し、すべて楽曲の作詞を手掛ける。バンドメンバーである奥野翔太、杉本雄治は兵庫県立神戸高校の同級生。関西学院大学に進学後も音楽活動を続け、2009年10年、配信限定シングル『白朝夢』で念願のメジャーデビューを果たす。バンド名には「音楽を紡ぐ人」という意味を込めた。今年9月にはEP『A/W』をリリースし、今もなおライブ活動などを中心に勢力的に活動している。

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