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芥川、谷崎、ゲーテ……文学マニアが作ったお店で「文豪たちが愛した食事」を堪能してきた

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食事と文学は、切っても切れない関係にある。

もし、主人公がマドレーヌを食べなければ、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』は話が進まないし、村上春樹は『ダンス、ダンス、ダンス』の主人公である「僕」にスモーク・サーモンサンドウィッチの作り方を自慢気に語らせた。

作家自身もしかり。

池波正太郎も開高健も文学と同様に食を愛した。

そんな、文学とうまい食事に浸かることのできるお店、それが、BUNDAN COFFEE & BEERだ。

2万冊の蔵書に囲まれて、作家が愛した料理を食す

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東京・目黒区駒場の駒場公園内にある日本近代文学館の中に、BUNDAN COFFEE & BEERはある。

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正面玄関から館内に入った左奥がお店の入り口だ。

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店内に入ると、そこは、本、本、本!

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純文学に大衆文学、思想書などなど、日本の文学史を彩ってきた名作たち。

マンガも含めたその数はおよそ2万冊!

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壁に掛けられたコンテンポラリーなドローイングや飾られたオーナメントたち。

落とし気味の照明に窓から入る柔らかな光。

ひとつひとつの要素が作り出す空気感はさながら「文豪の書斎」。

思わず「珈琲」を飲みながら、わけ知り顔でつらつらと思索にふけってしまいそうになる。お店の奥には「火花」で芥川賞を受賞し一躍文学界のスターになった又吉直樹や歌人の枡野浩一、マンガ家のヤマザキマリ等々、著名な作家のサイン色紙が並ぶ。

文学作品と作家にヒモ付けられたメニューの数々

マニアックな稀少本、日本の文学史を彩る名作までを手にとれることもさることながら、BUNDAN COFFEE & BEER最大の面白さは文学とヒモ付けられたメニューにある。

たとえば、「芥川 AKUTAGAWA」(700円)。

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このコーヒーは芥川龍之介、菊池寛、与謝野晶子といった文士たちが通った「日本のコーヒー文化発祥の地」、銀座のカフェーパウリスタのコーヒーを再現したもの。

ブラジル産の豆を三軒茶屋の名店、オブスキュラコーヒーロースターが焙煎した逸品だ。

心地よい酸味とコクがありながらもヌケのいい味わい。

おいしい。

とても豊か。

そして、「ケストリッツァーシュバルツ」(900円)

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こちらは世界的文豪、ゲーテが愛した黒ビール。

ビターチョコのような香りと泡のクリーミーさからドイツで最も人気のあるビールなのだという。

その他にも、太宰治や谷崎潤一郎、宇野千代ほか、そうそうたる文学者、文学作品と関わった料理を提供しているので、詳細はお店のサイトで確認していただければと。

文学にとヒモ付けした料理を提供するお店は他にもある。

しかし、BUNDAN COFFEE & BEERほど徹底してこだわったお店を僕は知らない。

その理由はプロデュースと運営を行っている東京ピストルの草彅洋平(くさなぎようへい)さんが、自他ともに認める文学マニアだからだ。

深い文学愛、ゆえに立ち上げられたBUNDAN COFFEE & BEER

日本近代文学館のテラス席で読書していた人が草彅さん。

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草彅さんは編集者。

本、Webだけでなく、イベント、店舗ほか、あらゆるものを編集の切り口で制作、プロデュースする東京ピストルの代表だ。

その範囲は飲食にも及び、昨今のグラノーラブームの先駆けとなった専門店「GANORI」の仕掛け人でもある。

ganori.jp

ちなみに、BUNDAN COFFEE & BEERの2万冊の本は全て草彅さんの蔵書。

草彅さんに、BUNDAN COFFEE & BEERの立ち上げについて話をうかがった。

f:id:Meshi2_IB:20171023123314j:plain f:id:Meshi2_IB:20171026091619p:plain日本近代文学館からお仕事の相談があって久々におうかがいしたんです。そうしたら、もともとあった食堂が廃業していた。職員の方たちも食べる所がなくなって困っているという話を聞いて、「じゃあ僕が借ります」って。借りたはいいけど何をやろうと。その頃ちょうど神戸の倉庫に本を大量に寝かせていたんです。僕、本が捨てられないからたまる一方で、それを持ってこようと。倉庫代は浮くし本はもともと大量にあったし、日本近代文学館という場所だった。たまたまブックカフェを経営する条件がそろっていたんですね。

そして草彅さんは、豊富な蔵書と文学由来のメニューにこだわったBUNDAN COFFEE & BEERの立ち上げにかかる。

f:id:Meshi2_IB:20171026091619p:plain文学と関係したメニューを提供していたお店は他にもあったけれど、ふわっとネーミングをつけただけで、料理のクオリティーがなかった。単にオシャレにするのは違いますよね? メニューに作家の名前を付けるなら、その由来、意味を持たせないと。そのあたりをきっちりやりました。 f:id:Meshi2_IB:20171023123318j:plain

そう考えた草彅さんだが、文学を尊ぶあまり、オープンしてから予想外なことに直面する。

f:id:Meshi2_IB:20171026091619p:plain最初のうちは料理を文献に忠実に再現しました。ところが、味が古いんですね。おいしいけど味付けがなんでもケチャップとか。それだと現代人は満足しない。そこから改善していった感じです。お客さんは文献との整合性よりおいしいものを食べたい。味より高い再現度を求めるマニアはほとんどいないことに気づくのに1年から2年かかりました。

このあたりの気持ちはわかる気がする。文学への敬意が大きいほどまわりが見えにくくなる。事実、開業から2年間は赤字だったという。

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意外なことに、草彅さんは、いわゆる「オシャレなブックカフェ」に行くこともなかったし、作るつもりもなかったようだ。

f:id:Meshi2_IB:20171026091619p:plain「オシャレなブックカフェ」は、単にオシャレでしかないので、本当の本好きは嫌いだと思うんですよ。文学は本気で好きなものだから、徹底的にこだわりたかった。BUNDAN COFFEE & BEERは消費されないように上手く作ったから残っているんだと思います。 f:id:Meshi2_IB:20171023123325j:plain

草彅さんの文学への熱い思い、しかと受け止めさせていただきました。

文豪も食した牛めしを試食する

話のキリのいいところで、本日の目玉のランチメニュー、「牛めし」(単品 900円、ドリンクセット 1,150円)が登場。

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この牛めしは、作家・林芙美子が自身の放浪生活をつづった日記をベースに書かれた自伝的小説『放浪記』に登場したものだ。

脚本化もされ森光子主演で公演2,000回を記録。

見せ場の「でんぐり返し」は広く知られているから、ご存じの読者も多いだろう。

作中で林は、同棲相手の詩人兼劇作家との生活に行き詰まり、日銭を稼ぐために牛めし屋さんの女中にもなっている。

そんな林芙美子になじみ深い料理を、オリジナルレシピで再現したのがこの一品。

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艶やかに光る牛肉、タマネギ、ゴボウ。

その上に散らされたあさぎの緑と七味唐辛子の赤が美しい。

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ヤバい!

おいしそう!!

小鉢の生卵をかけて、おもむろに混ぜる。混ぜる。

いただきます!

品のいい甘さに煮込まれた牛肉をひとかみ。

ジワーっと染み出す煮汁。

あめ色になったタマネギの程よいしんなり感。

ゴボウの香りとほのかな苦味が心地よく肉のうま味を引き立てている。

舌が喜んでいるのがわかる。

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なめこの味噌汁は、出汁の風味と塩分控えめの味付けが煮込んだ牛肉の甘辛さと絶妙にマッチ。

大根の漬物の酸味と甘みのバランスもいい感じ。

おいしいなあ。

牛めしをシェアして食べていたカメラマン(オーストラリア人)がボソっと一言。

「これ、いくらなの? ミラノで食べたら40ドル以上はするよ」

え、マジで!?

彼の話では、海外ではコンセプトが明確でこれだけの味の牛丼なら40〜50ドル出しても食べたい人がいるらしい。

以前はヨーロッパで仕事をしていた彼の言うことだからうそじゃないはず。

でも、そう思うのも無理もないのかも。

作った料理人の方は、BUNDAN COFFEE & BEERの前に、ミシュランで星を取った某レストランで支配人を務めていたキャリアの持ち主だもの。

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こだわりの牛めし、ごちそうさまでした!

秋晴れの日にはBUNDANに行こう

「あらためてプライベートで食べに来よう」

そう思った。

知を感じさせる書斎独特の穏やかな空気感、料理のおいしさ、スタッフの皆さんのホスピタリティー。

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取材だけじゃもったいない。

店内で販売されている東京ピストルオリジナルの文豪グッズや厳選されたステイショナリーなんかも楽しいものばかりだし。

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どの駅からも若干遠くて閉店時間が早いのがアレだけど、草彅さんの言葉を借りれば、こういった制約があるがゆえに、飲食店として「消費されない」んだな。

秋晴れの日にはBUNDAN COFFEE & BEERに行こう。

文学館の入り口横に設けられたテラス席も気持ちいいはず。

もっとも、しっとりとした雨の日もグッドヴァイブレーションの予感。

これで、遅れがちな原稿もサクサク進むかもしれないですよ、編集のMさん!

お店情報

BUNDAN COFFEE & BEER

住所:東京都目黒区駒場4-3-55(日本近代文学館内)

電話番号:03-6407-0554

営業時間:9:30〜16:20(LO 15:50)

定休日:日曜日・月曜日・第4木曜日

bundan.net

※この記事は2017年11月の情報です。

※価格は全て税込み表示です。

写真:Alin Huma

書いた人:渡邊浩行

渡邊浩行

編集者、ライター。アキバ系ストリートマガジン編集長を経て独立。日本中のヤバい人やモノ、面白い現象を取材するため東へ西へ。メシ通で知ったトリの胸肉スープを毎日飲んでるおかげで、私は今日も元気です。でも、やっぱりママンの唐揚げが世界一だと思ってる。

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