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21世紀に登場した最高のシンガー、エイミー・ワインハウスの『バック・トゥ・ブラック』

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わずか8年の歌手生活でも、彼女の名は永遠に忘れられることはないだろう。それだけ強烈な個性を持ったシンガーであった。まさか27歳で亡くなるとは思わなかったが、彼女の歌には本物のソウルがあった。淡々と歌っている時でさえも情念が迸り出るような、そんな歌手だった。ソウルミュージックとは彼女の音楽にこそ相応しい。今回はエイミー・ワインハウスの名を世界中に広めた傑作2ndアルバム『バック・トゥ・ブラック』を紹介する。
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マーク・ロンソンの功績

2014年、ブルーノ・マーズをフィーチャーしてリリースしたマーク・ロンソンの「アップタウン・ファンク」は60s〜70sのソウルやファンクが好きなおじさんたちを熱狂させただけでなく、世界中の若者たちも魅了する結果となった。ロンソンはDJとして音楽生活をスタートさせているだけに、さまざまな音楽を聴き、プロデューサー的な視点を身につけていたのである。彼のソロアルバムはバックトラックを制作し、曲に合ったシンガーやラッパーをセッティングするというスタイルだ。「アップタウン・ファンク」ではブルーノ・マーズの起用が見事にはまり、グラミー賞の年間最優秀レコード賞の他2部門で受賞したわけだが、そこにはエイミー・ワインハウスの「リハブ」で培った方法論が使われている。
そう、このマーク・ロンソンこそが、エイミー・ワインハウスの2nd『バック・トゥ・ブラック』をプロデュースした人物なのである。彼の好みは60s〜70sのソウルやファンクなどで、グルーブ感や暑苦しさも含めて、当時の熱いサウンドを今風にアレンジする才能をロンソンは持っていた。ただ、アレサ・フランクリンやジェームス・ブラウンのような古いタイプのソウルフルな若手歌手はなかなかおらず、普段はヒップホップ系のアーティストとコラボしている。
シャロン・ジョーンズ &ザ・ダップ・キングス

2002年、レトロなソウルやファンクをオタクたちに供給していたダップトーンレコードから、シャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスのアルバムがリリースされた。このレーベルはサウンドやジャケットデザインも含めて、60s〜70sソウルをイメージしていて、大々的に自分たちの音楽を売る気はなく、オタクたちを満足させればそれで良かったはずだったのだが、このアルバムがかなりの注目を浴びることになる。
ダップトーンレコードのコンセプトと似たような意識を持つロンソンは、どこかでこのグループを使いたいと考えていたらしい。ただ、ダップトーンレコードのオーナーはダップ・キングスのリーダーで、シャロン・ジョーンズを純粋なソウル歌手として活動させたかったこともあり、レーベル外での活動は考えていなかったようだ。しかし、ロンソンとワインハウスによって彼らの名は世界的に知られることになる。
ジャズ歌手としてデビューした ワインハウス

10代の頃からイギリスでジャズ歌手として活動していたワインハウスが、ジャズ歌手としてデビューするのは当然のことであったかもしれない。2003年にリリースされた彼女のデビューアルバム『フランク』は新時代のジャズ作品として大いに評価されたことは間違いないが、自作のレトロなR&Bで花開く彼女の資質が活かされるスタイルとは言えなかったと思う。しかし、このアルバムの中に、その後のワインハウスへとつながる曲が数曲ある。そこをロンソンは見逃さなかった。自分ならもっと彼女を活かすプロデュースができると考えたはずだ。
新人歌手としては珍しいぐらいの評価を受けていたにもかかわらず、ワインハウス自身もまた、デビューアルバムの内容には満足していなかった。彼女自身、アメリカの50s〜60sのソウルやポップス(特にガールズグループ)に傾倒しており、それらの音楽を甦らせたいと考え始めていた。そして、渡米した際にシャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスの音楽を知ることになる。彼らのレトロなサウンドに惹かれ、ツアーの前座に招いたりするうちに、ジャズ的なものではなく、R&Bサウンド+レトロポップス的な曲作りを始めるのだ。
新曲を携えたワインハウスは、マーク・ロンソンがMCを務めるニューヨークのラジオ番組に出演、後の大ヒットとなる「リハブ」他数曲を歌うのだが、この時はすでにロンソンがプロデュースを引き受け、シャロン・ジョーンズ抜きのダップ・キングスがバックを務めることが決まっていたようだ。
本作『バック・トゥ・ブラック』 について

そして、2005年の6月、ダップトーンレコードの専用スタジオで本作のレコーディングが始まる。アルバムに収録されているのは全部で11曲。プロデュースはマーク・ロンソンとサラーム・レミ(デビュー盤のプロデューサー)のふたりで、曲によって分担している。曲作りは「リハブ」や「バック・トゥ・ブラック」など数曲についてはロンソンが手伝ってはいるが、基本的にはワインハウスが手がけている。
アルバムリリースとともにシングルの「リハブ」がリリースされると、個性的なPVから火がつき世界中で大ヒット、自身の薬物中毒についての歌詞も独創的であった。ワインハウスとロンソンが作ったデモトラック(後にリリースされた)は50s〜60sのガールグループ的なニュアンスなのに、ロンソンが最終的に作り上げた正規バージョンは、見事な現代的なR&Bに仕上がっているところに彼の非凡な手腕が分かる。
「リハブ」の世界的なヒットもあって、続けて「ユー・ノウ・アイム・ノー・グッド」「バック・トゥ・ブラック」「ラブ・イズ・ア・ルージング・ゲーム」などが次々とヒットし、彼女は一躍時の人となった。結果的に、『バック・トゥ・ブラック』は全米チャートで7位、全英チャートでは1位となり、翌年のグラミー賞で最優秀新人賞など5部門を受賞、ノラ・ジョーンズ以来の大器と言われるまでになったのである。
もちろん、アルバムは文句なしの仕上がりだ。名曲揃いで、内容については僕が保証する。ワインハウスのヴォーカルと、バックを務めるダップ・キングスのソウルフルな演奏は最高のマッチングで、まさに新時代のUKソウルになっている。イギリス人はソウル好きで知られ、キャロン・ウィーラー、カーリーン・アンダーソン、ジョス・ストーンなど、ソウルミュージックをバックボーンに持つ女性UKシンガーは多いが、ワインハウスの演歌的とも言える哀愁を帯びた切ないヴォーカルは並ぶ者がいないほどの素晴らしさである。
残念なことに2ndとなる本作『バック・トゥ・ブラック』がワインハウス最後のオリジナルアルバムであり、2011年7月に亡くなってしまった。亡くなる数年前からコンサートのドタキャンや深夜の徘徊など、薬物やアルコール中毒によるものと見られる不可解な行動が報道されていたから、そのあたりのことは知っている人も多いだろう。歌手として、わずか8年ほどしか活動はしていないが、永遠に記憶に残るシンガーであり、残された音源や映像は今後もずっと愛されていくだろう。
TEXT:河崎直人
アルバム『Back To Black』
2006年作品
 (okmusic UP's)

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