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宇宙開発や超伝導にふれる大人の遠足@ニコニコ学会βサマーキャンプ2017参加報告【研究所見学編】

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野田司令、筑波研修センターに現れる

ニコニコ学会βといえば、「研究」を研究者だけでなく、一般の私たちにも広く開いてくれたコミュニティ。ユーザー参加型の研究活動の場として、これまで数多くの野生(ノラ)の研究者が発掘されてきた。

現在も交流の場としての活動は今も継続している。特にサマーキャンプは毎年恒例で行われており、アンカンファレンスと研究所見学ツアーが行われている。

キャンプ2日目の9月3日、会場である茨城県つくば市の筑波研修センターに現れたのは野田司令こと野田篤司さん(以下、野田さん)。

野田さんは、世界で一番低い軌道を飛ぶ衛星(超低高度衛星)の概念設計を行ったJAXAの現役エンジニア、超低高度衛星は今年12月に打ち上げ予定だ。

あまり公になっていないが、インターステラテクノロジズにもかんでいたり、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のSF設定に協力していたり、知る人ぞ知るのマッドサイエンティストだ。

研究所見学、JAXA筑波宇宙センターの見学に先立ち、野田さんから宇宙開発についてレクチャーがあるのだ。

野田さんのトークは、わかりやすく、おもしろい

野田さんは「誰でも宇宙にタッチできるような世界を作りたい」という。それには、今のような一機100億円もかかるようなロケットの作り方ではなく、もっと安いコストで、誰でも作れるようにならないと無理だ。

今年7月のインターステラテクノロジズによるMOMO初号機の打ち上げは、日本の民間企業による宇宙開発の動きとして大きな話題になった。MOMOは市販の部品や材料を利用するなど、開発コストを大幅に抑えている。

ちなみに、このインターステラテクノロジズ、もともとは民間で有人宇宙船を作りたいという有志で集まったことから。社名には、太陽系の外に脱出するぞという意味が込められている。

また、大きさの問題もある。人工衛星の需要として、重さが50kgというレベルが”役に立つ衛星”としての最低ラインだと一般的には考えられているが、50kgの人工衛星を作るのは素人では無理、と野田さんは指摘する。

製造の現場の経験がないと、作るものと、その大きさ・重さの関係がピンとこないが、50kgという重さを伴う大きさでは、作業に、専用の環境設備が必要になる。本体を持ち上げたり動かしたり、まず人手では無理だ。

野田さんが、次に狙っているのは世界最軽量の人工衛星だ。いま世界的にどのくらいまで可能になっているかというと、今年7月に米国コーネル大学のザク・マンチェスター氏らにより開発され、宇宙へ打ち上げられた「Sprite」が4g。ということで、4g未満で実用に目処をつける衛星が狙うところだという。

いざ、筑波宇宙センターへ

いよいよ、筑波宇宙センターの見学ツアーに。

JAXA筑波宇宙センター

筑波宇宙センターの位置付けについて。

これも野田さんがレクチャーしてくれたことだが、JAXAが持っている宇宙関係の施設のうち、種子島宇宙センター、内之浦宇宙空間観測所についで広いのが筑波宇宙センターだという。

種子島はロケット発射設備があるので広い。これは、ロケットが爆発しても外側に被害が広がらないように(ちなみに、ロケットの発射台がある射点は海に突き出し、山に囲まれているが、これは山を隔てることで爆発しても爆風が民家に行かないためにそうしている)。

一方、筑波宇宙センターはオフィス部分に加え、研究開発が行われている実験装置や試験装置を持つ。開発製造した人工衛星やロケットを打ち上げる前に宇宙空間で壊れないこと、動くことを試験するための機関ということになる。

また、人工衛星のコントロールを行う追跡管制設備、宇宙ステーションのコントロールを行うところ、宇宙飛行士が常駐しているところという面もある。

宇宙航空開発施設の一部を見学するツアー(有料:500円)もあるが、今回は残念ながら、スペースドームのみ。スペースドームは一般に公開されている無料の展示スペースで、人工衛星のフライトモデルなどが展示されている。

人工衛星というと一点ものというイメージだが、同じものを複数個作るのだ。1つは前述のように過酷な試験を行い、宇宙空間で動くことを徹底的に試す。こうした人工衛星や宇宙ステーションのモックアップなどが展示されている。

月周回衛星「かぐや」(実物大の試験機) 実験用中型放送衛星「ゆり」(実物大の試験機) データ中継技術衛星「こだま」(実物大の試験機)




「きぼう」は、国際宇宙ステーション(ISS)の一部として機能する日本の宇宙実験棟。スペースドームにはそのモックアップがあり、中にも入れるようになっている

「きぼう」モックアップの中に入ったところで、野田さんからの問題が来た。
「何か、気づきませんか? 宇宙ステーションの内部はこうなっているんですが……」と。

答えは、「上下をわざと作っている」こと。
本来、宇宙空間には上下はないので、すべての面に操作スイッチをつけてもいいが、上には明るい照明を付け、下には暗くして、区別をつけている。

1970年代にアメリカが宇宙ステーションの1号機を打ち上げたとき、最も効率的な使い方をしようと全面が使える、上も下もない設計にしたら、宇宙飛行士がやめてくれという話になったそう。

「きぼう」内。上部は明るい H-IIA/Bロケット第1段エンジン「LE-7A」 H-IIA/Bロケット第2段エンジン「LE-5」 小惑星探査機「はやぶさ」(2分の1モデル) 小惑星探査機「はやぶさ2」(模型) 宇宙飛行士のスーツ、計器類の文字が反転しているのは鏡越しで確認するからだという

敷地内の「ロケット広場」には、H-IIロケットの実機が展示されている。50mもある本物のロケット!




実物のロケットの下で現役宇宙機エンジニアに話を聞く!

ここで、みんなで記念撮影

館内・館外とも、野田さんならではの解説を聞き、ツアーは無事終了。

個人的に印象深かったのは、最初に作った人工衛星に愛着があるのかという参加者からの質問に、野田さんは「『物』としての愛着はないが、『技術』には愛着というか重要性の認識をしている」と即答だったこと。追いかけているのは技術そのものということなのだ。

超伝導の世界

続いて、NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)に向かう。物質・材料に関する基礎研究などを総合的に行っている研究機関だ。

ここでは、超伝導のデモンストレーション見学と物質の中の原子の立体配置が見える装置「アトムプローブ」を見学する、2つのグループに分かれた。筆者が参加したのは超伝導の解説&デモンストレーション。

超伝導について解説してくれるのは、NIMSのナノフロンティア超伝導材料グループ グループリーダー 高野義彦さん(以下、高野さん)。

高野義彦さん(NIMSのナノフロンティア超伝導材料グループ グループリーダー)

そもそも超伝導とは何か?

まず、作られた電気が運ばれる話から。電気は発電所から運ばれてくるが、途中、電線には電気抵抗があるため、いくらか熱になってしまう。せっかく生まれた電気が届くまでに目減りしてしまう。電線の抵抗が少なければスムーズに電気が目的地まで着くはず。

つまり、それが”完璧に無抵抗である”という状態が超伝導。完璧に無抵抗というのは「0」(ゼロ)であること。

1911年、ある金属や化合物などの物質を非常に低い温度へ冷却したときに電気抵抗が0になる現象がオランダの物理学者ヘイケ・カメルリング・オンネスにより発見され、以降、どういう物質が何度で超伝導体へ転移する(超伝導体に転移する温度を「転移温度」という)か、などの研究が行われてきた。

今、一番世の中に貢献している超伝導を活用した装置がMRI、続いて、東京-名古屋を結ぶリニアモーターカーの社会実装が期待されている。そのほか、風力発電機を超伝導にしようという動きがあったり、超伝導のモーターを入れた車が試作されていたり、船舶への転用、超電導電磁推進船ヤマト1号など応用の研究も進んでいる。

応用の研究は進んでいるが、まだ実用には至っていない。その大きな理由は、超伝導は物質を冷やすことで起きる現象だから。その物質により転移温度は異なるが、超伝導を起こすのにマイナス200度以下に冷やす必要があるとなれば、大掛かりな装置が必要で、一般の私たちが扱うには現実的ではない。

そこで、あまり冷やさなくても超伝導を起こす物質・化合物(それが室温超伝導と言われる夢の物質)を探そうということなのだ。高野さんは、これを天文学における彗星発見にたとえて、「マイ超伝導を発見する」と表現する。ちなみに、高野さんにもマイ超伝導があるそう。

超伝導物質の歴史。縦軸の単位はケルミン(K)、絶対零度(0°C)が273ケルミン

まだまだ程遠いように感じるが、2014年に硫化水素が203Kで超伝導体を示すことが発見され、もう決して夢ではないところまで現実が進んできている。可能性の範囲に入ったのではないかと、高野さんはいう。

203Kというとマイナス70°C。ドライアイスが約マイナス80°Cなので、市販で入手可能なドライアイスで超伝導が可能という、超高温超伝導の世界が来ている。

超伝導体を探すといっても、具体的にどういうことをしているかというと、発見された超伝導体の結晶構造を元に、結晶構造のどこが何のために働いているのかを見極め、組み合わせを変えたり、圧力をかけたりする。最高のパフォーマンスを出すよう、目には見えない結晶の設計をするのだ。そうして、いろいろな超伝導体が発見されてきている。

こうして、超伝導研究とはどういうことか基本的な話を聞き、実際に超伝導にさわらせてもらう。

いくつかデモの体験をさせてもらうが、基本原理は、超伝導による磁気浮上を使ったものだ。液体窒素でYBa2Cu3O7という銅化合物を超伝導にし、磁石に置く。すると、磁束を退けるマイスナー効果とピン止め効果(磁束が捕らえられ、ピンで止めたように動かなくなる現象)により超伝導磁気浮上が起きる、というもの。




超伝導体を磁石に置く。浮上しつつも、ピン留め効果により、逆さにしても落ちない

超伝導体でジェットコースター

超電導浮上装置。超伝導の磁気浮上で人を浮かせてしまったもの。浮いているため、手を押されるだけでクルクル回転する

デモには超伝導の状態を作る必要があったため、当日も到着時間前から仕込んでくれていたそう。デモ中、液体窒素を都度、追加するなど、研究室のスタッフのみなさんにもお世話になった。


自ら試してみる参加者、夢中になっている

これにて、全日程終了。

実際の研究者に研究テーマの話を聞くという機会はなかなかないのだが、本当におもしろいので、また、こうした機会ぜひ参加してみたいと思った。これはおすすめだ。

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